※ カテゴリー詐欺です
佐助カテゴリーですがどこまでも政宗夢ですこれはひどい
佐助→あなた→政宗です
しかも佐助の登場はたったの数行です。
正直すまんかった
それは酷く唐突だった。
政宗は人の来訪があるだなんて思ってもいなかったし、相手も誰かがいるだなんて思ってもいなかったのだろう。
無言のまま視線が絡み数拍。
先に政宗が口を開きかけた瞬間、部屋に侵入していた何者かが肉薄し、気づいた時には床に組み敷かれていた。
普段の政宗であれば、唐突の襲撃であろうと遅れはとらなかっただろう。
だがしかし、ここは奥州の山の奥地、伊達家にのみ伝わる秘湯でゆっくり休養を楽しんだ後。
目付けの鬼の右目も居ないことも重なって、気が緩みきっていたのも致し方ない。
だがそんな言い訳など乱世には通用しないのだ。
あまりにも無様な己の姿に、政宗は舌打ちさえ溢せなかった。
政宗の上にのし掛かる黒い頭巾から覗く瞳がギラギラと血走っている。
手負いの獣のそれ。さらに喉に突きつけられた刃物の冷たさ。
湯上がりの体が温度差を、ひやりと感じて全身が緊張した。
しかしただでやられる政宗ではない。すぐさま反撃に相手を蹴りつけようと睨み付ける。
戦場数を踏んで居ないわけではないのだ。だが、その行動が実行されるまえに、一層強く喉に刃物が押し当てられた。
鋭さがあるにも関わらず、薄皮一枚が切られたのみで後は気管を潰すのみ。
その力量からなかなかの手練れと伺えた。
好転しない現状に政宗は今度こそ舌打ちを溢すのだった。
「静かに。動くな。頼む」
囁くように、だが刃物により強制力の増した命令に政宗は大人しく口を閉ざす。
未だ馬乗りになったままの黒ずくめの人物は、困った、とまるで迷子を見つけたような反応を見せつつ、もう一度「頼む」と小さく懇願した。
「危害を加える気はない。人がいると、思わなかったんだ。大人しくしていてくれればなにもしない。少し、休みたかっただけなんだ」
すん、と鼻を鳴らせば血の香り。それ以外はなにもしない。立派な忍らしいが独眼竜を知らないとはモグリだろうか。
嘲笑の言葉を並べようとした政宗だったが、ふと思い出せば湯上がりで眼帯はまだ着けていないし濡れた髪が張り付いて右目は露にはなっていない。
こうも偶然が重なると、少し面白い気もした。
「分かった。大人しくしてあんたの事は他言無用でいいだろう?」
「・・・いいのか?」
逆に驚いたらしい忍の声。
政宗はああ。と相槌を打てば、喉元から刃物の気配が引いた。
「すまない。一晩、寝かせて、くれれば、いい」
「おい?」
「迷惑を、かける、私は、無視してろ」
部屋の隅に退いた気配。
蝋燭の灯りを当てれば、部屋の角で丸くなる黒いものを見つけた。
「おい、」
声をかけるが返事はない。
死んだか?といぶかしむ政宗はそれを観察する。
微かに上下する胸が、生きていると示していた。
どこの忍か知らないが、とんだ間抜けか肝が座ってるか。
相手の力量も測れないのか、測る余裕もなかったか。
じわりと床に広がった赤に、政宗は盛大に眉をしかめてため息をついた。
「迷惑かけるから無視しろって、床に血が染み付いちまったら余計迷惑だぜ」
眠ると言うより深く昏睡している忍は触れても目覚める気配は無さそうだ。
眠る忍の忍装束を剥ぎ取ってみる。
黒い頭巾からは長い黒髪が溢れ、肌は眩しい程白かった。
「くの一か」
上杉の剣を思い出すが色が違う。
とても滑らかとは言えない傷をもつ肌。
脇腹と背中に受けた刺し傷が深手なのだろう。
つ、と指を這わすがそれにさえ忍は反応を返さない。
恐らく、背中の傷は肺を避けたが、脇腹の傷はあと一寸深ければ膓が出るほどだ。
きつく巻かれた包帯からは溢れるほど軟膏が塗られている様子から、応急処置のみして帰還を目指したのだろう。
どこの忍か知らないが、面白い。
この独眼竜の住まいで寝こけるのだ。
なにをされても文句は言えまい。
政宗はにやりと意地悪く口角を吊り上げ、眠れる忍を抱き上げた。
***
目覚めも出会いと同じく唐突だった。
政宗は気儘に煙管の掃除を終え、仕事の後の一服にしけこもうとした瞬間、背後の存在が飛び起きた。
「・・・」
「起きたか」
「・・・?」
飛び起きた割りには未だ眠たげな半眼。
とろりと滲んでいた黒目は緩かに覚醒し、はっきりとした意思の輪郭が形成される頃には政宗は煙管の火種を燃やし始めていた。
「三日も眠ってた。Blankがあるのもしかたねぇたろ」
「ぶら?なんだ?」
「他に言うことがあるだろ?」
にやりと笑いながら煙管の煙を吐きつける。
忍はすこし考えた後、ほとんど裸の自身を見下ろし目を向いた。
「て、手当てを?」
「yes」
「す、すまない、なんと礼を言えばいいのか」
慌てる忍を鼻で笑い、政宗は優雅に煙を吸う。
「礼はもう貰った。織田軍の勢力図」
その瞬間、忍の気配が掻き消える。だが敵を目の前にして遅れを取る政宗ではない。
背後に忍んだ忍の手首を捉え、勢いを付けて地面に叩き落とす。
完治していない背中の傷には染みるだろう。
想像通り、忍は声にならない悲鳴をあげて悶絶した。
「この顔を知らねぇか?」
「鍔の眼帯っ・・・独眼竜!?」
やはり気づいていなかったか。
くつくつと笑えば忍の顔色が心なしか青くなった気がする。
「ど、独眼竜殿の住まいとは露知らず!」
「まぁ秘湯だからな。なんなら湯治でもしていくか?」
軽い調子で誘ってみれば忍はぱちりと音がするほど間抜けにまぶたを瞬かせた。
「と、湯治、ですか」
「あんたがもってた薬と回復力でおおかた傷も塞がったろ。軽く体拭いただけだから汗流したかったら浴びてこい」
一気に言い終え煙管の紫煙を吹き上げた。薬草臭いそれに忍は眉をしかめる。いや、理由は煙管ではないだろう。
「何故?」
戸惑いの感情が浮かぶ声音に政宗は思わずくつくつと笑った。三流なのか、それとも感情を隠す気はないのか。
「只の気まぐれだ」
言えば忍はぽかんと、それこそ子供のような間抜けな瞳で政宗を見ていた。
「・・・ここには人の気配がない。いくら武勇誉れ高い独眼竜殿でもお一人とは些か危なくはないのですか?」
「なんだ、心配か?」
どこの忍かは知らないが、人を気遣うとは不思議なものだ。
からかうように言ってみれば、忍「別に」とやはり子供のようにそっぽを向く。
それがますます面白く、声をたてて笑ってしまえば気を悪くした忍は「湯を頂きます!」と馬鹿みたいな声を残して掻き消えた。
「変な忍」
忍と呼ぶのも憚るような、ただの町娘のような反応にはやはり笑いが止まる様子はなかった。
幾ばくかして、そのまま消えるかと思った忍は湯上がりのほっこりした顔色でまた部屋に戻ってきた。
本当に忍かと疑いたくなるほどだ。
丁度昼げの準備をしていた政宗は、暇そうな忍に声を掛けて皿を要求する。
忍も忍で本当に独眼竜かと疑うような視線を投げつけてきたが、存外大人しく皿を手渡してくれた。
「ご自分で調理を?」
「趣味みたいなもんだからな」
「変なの」
「てめぇに言われたくねぇよ」
からからと笑う政宗は鍋の中身をゆっくり掬い、忍に二つ手渡してた。
「箸そこにあるから取ってくれ」
「独眼竜殿は、以外と大食漢なんですね」
「てめぇの分だよ」
は、と声をあげる忍を他所に焼き上がった魚も皿に乗せて机に運こぶ。
脂の乗った川魚の芳ばしい臭いが香りたち、炊きたての米が眩しく茶碗の中で輝いていた。
ぐぅ、となる腹の自然現象に忍は決まり悪そうに表情をしかめる。
「腹が減っては戦はできぬ、だろ」
まぁ別にやりあう気はないけどな。
立ち竦む忍から椀と箸を取り上げ政宗はひとりいただきます、と食前に手を合わせて橋を進める。
立ち尽くしていた忍は観念したか、政宗の向かいに腰を下ろして箸を取った。
無駄な肉のない輪郭だが鋭利と呼ぶにはまろやかすぎる。
はじめの死の白の色をしていた頬は、湯上がりも相まって血色は宜しい。
政宗は豚汁ならぬ兎汁を啜りながら上出来だとひとりごちた。
「独眼竜殿は何故にお一人でこのような辺鄙な場所に?」
「あぁ?夜逃げだよ夜逃げ」
かんらかんらと笑ってみれば、忍が信じられないとばかりに半眼で睨んでくる。
鬼の右目に近い視線に、政宗は嘘だよ、苦笑して魚を解した。
「鷹狩りに来たんだよ。部下どもが付いてくる予定だったが邪魔だから暇潰しに里帰りさせた」
「鷹狩り、ですか」
乱戦において、鷹は権力の象徴ともとることが出来た。
強く美しく逞しい鷹を持つ武将はそれだけで一目置かれる。
政宗自身ただの象徴に興味はない。只の政務から逃げ出すための口実に過ぎなかった。
「しかし、国主が幾日も国を開けて宜しいのですか?」
食い下がる忍は存外に丁寧に食事をしつつ政宗に問い掛ける。
綺麗に骨になった魚を見やり、政宗はただ笑った。
「優秀な部下が多いからいいんだよ」
そうして暖かい茶を飲み下し、心地よい満腹感に御馳走でした、と手を合わせるのだった。
忍は始めに宣告した通り、政宗に危害を加えようとすることはなくただただ怪我を癒すためだけに黙々と眠る。
その間政宗は煙管や刀の手入れをし、気紛れに川の魚を釣り、兎や鳥を狩っては手ずから調理して忍に与えてみた。
まさしく手負いの野性動物に餌付けをする心地である。
懐かせる気はなかったが、時折小さく「おいしい」と溢す声は、なかなかどうしてこそばゆい。
ついつい構いたくなるのも仕方がないというものだろう。
鬼の腹心がいればいったいなんと罵倒することやら。
だがそんなこんなで忍が現れて早五日、傷もすっかり癒えたらしい忍はいつのまにやら漆黒の忍装束に身を包み、部屋の中で三つ指をついて恭しく頭を下げていた。
「独眼竜伊達政宗殿。いと高き御身でありながら私のような草の者の命をお救い頂き誠に有り難く存じ上げます」
「おいおい、なんだってんだ、急に畏まって」
理由がわからないわけはなかった。
これは忍だ。
どこかに仕える者、帰る場所、戻るべき里があるのは解りきっていた。
戻るのだろう。
瀕死の獣から物言う道具へ。
政宗はそっと目を細めれば、顔を上げた忍と視線が絡まった。
「なんとお礼を述べても足りませんが、私なりにない頭を捻りましたので、お気に召していただければ幸いです」
ぴゅう、と風を切るような指笛が鼓膜を震わせ、開け放っていた窓から羽ばたきの音がする。
ふうわりと優雅に到着したそれは、逞しくも美しい、大きな鷹であった。
政宗を見る鷹の黒目には誇り高さと深い知性が窺える。
そろりと伸ばした腕に、鷹は丁寧にほほを擦り寄せた。
「どうか、可愛がってやってください」
は、と振り替えれば其所にもう忍は居ない。
風に溶けるように消えた忍の影。
それが座っていた箇所の畳に指先で触れる。
確かな温もりに、一抹の寂しさが心中に去来するのだった。
「・・・あんたの主は、なんて名だ?」
美しい鷹に問いかければ、鷹は力強くぴゅーぃ、と無く。
名もない忍はもう居ない。
政宗は名を問うておけばよかったと、ほんの少し後悔するのだった。
想像妊娠で生まれた
子ども
子ども
タイトルクリックで続きます。
title by 暫