「ゆくのか」
「はい」
年若い主の声は、怒りや不条理もなく、ただただその身を案じる思いが含まれていた。
忍はこくりとひとつ頷いて、その手の書状を差し出した。
退職願、と達筆な筆遣いで書かれた文字に、幸村はどうしてもか、と置いていかれる子供の眼で忍を見る。
「心から、お仕えしたい方に出会いました」
「、」
「魂が吼えるのです。あの方に支えよと」
幸村様もご存じでしょう。
言えば幸村は声もなく喉をつまらせた。
幸村は武田信玄と言う絶対の君主を得ている。
そう、魂が騒ぐのだ。唯一絶対の主を前にすれば、人間の理性など儚くも塵となる。
仕方がないのだ。
魂が、そう騒ぐのならば。
それは誰にも止められない。
「私は、あの方に支える為に生まれたのです」
「心変わりは、ないのだな。」
「幸村様は、真に素晴らしい武士様でしたよ。ですが私には、」
にこりと微笑んでみれば、泣き出しそうに幸村も笑う。
「・・・達者で」
「幸村様も、お体にはお気をつけください」
ひゅうと一陣の風が吹き、瞬きの合間にの姿は消え失せた。
残された書状を開けば、小さくも丁寧に今まで有り難う御座いました。左様なら、真田幸村様、と記されている。
悲しくなる程、美しい文字であった。
「・・・行くの?」
「あなたに私を止める権利はないわ」
「上司に向かって酷いもんだ」
「大本は幸村様です」
「」
「佐助、離して」
ぐいと捕まれた腕に込められた力はいくらか強い。
鋭くなる視線に佐助はため息をついて手を離した。
「冷たいもんだねぇ、恋人に向かって」
「元、をつけてよ」
「ねぇ、真田にいなよ。抜け忍なんて大変なだけだ」
同郷の美しい忍を思い出してか、表情を歪ませる佐助をは鼻で笑う。
「私はかすがみたいに間抜けなことはしない。里には話をつけてある」
「旦那は?」
「お許しをいただいている」
「俺様には?」
「・・・佐助、いい加減にして。私は幸村様のお言葉を頂いた時点で真田とは無関係なのよ?」
苛立ちを孕む声を放てば佐助は苦しげに呻く。
忍らしくない惨めな姿だった。
酷いものである。
男は女に狂い、女は恋に狂う。
「次に会う時は、敵同士よ」
屹然と言い放てば、佐助の腕が再び伸びた。
の背に回されたそれはきつく体を抱き締め、夜の闇から影をひとつ消す。
「、生きろよ」
死ぬなとは言えない。
主のために死ぬのが忍だ。
だからどうか、せめてそれまで。
伝う心音は苦しくなるほど穏やかで、は少しだけ迷いつつも佐助の背に腕を回し返した。
「佐助も、元気でね」
いつ死ぬかも知れぬ我が身を持ちつつ、愛した主の為に生きねばならぬ。
快活に笑う幸村の笑みを思い出しつつ、はそっと喉を震わせた。
左様なら、
夜の空に滲むその声。
佐助は黙らせるようにの唇を塞いで、最後の言葉を喰い尽くした。
***
あれから一日を置き、政宗の鷹狩りと言う名の逃亡から七日が経った。
その政宗が米沢城に帰還した頃、門前に哀れな兵達が丸太にくくりつけられ放置されているという椿事が見受けられた。
慌てて縄をほどいてやれば、朦朧とする意識の中で兵達は「か、片倉様が」と溢して気絶する者数名。
全員政宗の鷹狩りに付いているはずの兵たちだった。
腹をくくるしかないとため息を吐いた政宗は、知らぬ間に戦場と化していた居城に進み入ったのだった。
ようやく帰還の知れた主に小十郎は有無を言わさず正座を強要する。
鬼の右目に射竦められながら正座をさせられるのは奥州筆頭独眼竜伊達政宗。この国の王である。
思わぬ主従逆転劇に成実は笑みを堪えた奇妙な表情で事の成り行きを見守った。
「・・・政宗様、申し開きはありますか?」
硬い小十郎の声に政宗はそろりと身動ぎする。見上げる小十郎は鬼か阿修羅か不動明王のそれだ。
ひやりと冷えた肝に救いを求めようと成実を見たが、視線が合う前に顔を背けられた。
「薄情者っ!」
「政宗様!」
瞬時に叱りつけられた政宗はああ、と低く呻いてどうしたものかと思考を走らせる。
「確かに。確かにこの小十郎は政宗様の鷹狩りをお許ししました。ですが!配下も付けずにお一人で行くなど!しかも居場所も告げず!さらには七日も雲隠れ!」
「お、落ち着け小十郎」
「今御身が無事なのは一重に幸運からですぞ!?あなたの責務をお忘れか!」
「ま、待て、政務は終わらせてたぞ」
「あなたの不在がどれだけ大事かご自覚ないのですか!?」
天下を取ると誓ったからには、犬死になどは許されない。
怒りに轟々と燃える小十郎に睨まれ、政宗はとうとう小さく謝罪を述べるのだった。
「・・・暫く反省してください」
性根は真っ直ぐなのだ。
それを知っているから一度謝られればもう叱れない。
甘いと自覚しつつも、きりきり痛む胃の命じるままに小十郎は怒鳴るのを止めた。
うなだれる政宗にあの鷹が窓辺でぴゅーい、と鳴く。
ひらりと室内に入り込み、鷹は政宗を慰めるように擦りよった。
「あー、ありがとよ」
まるで人語を解するのか。鷹はもう一度ぴゅーい、と鳴いて政宗の手に擦り寄る。
篭がなくても逃げず、誰彼構わず襲うこともない。しかし政宗以外にはとんと懐かない。
主を定めるとは驚くほどに知能の高い鷹。
誰もがその鷹を羨ましがり一目置いていた。
「政宗様、その鷹はどの様に捕らえたのですか?」
弓や縄の跡はない。
美しいまま鷹を捕まえるのは至難の技だ。
しかも、大人の鷹である。
調教もせずにこれなのだから、気になることは尽きない。
「貰った」
「貰った?」
「あぁ、忍に」
瞬時ぴしりと空間がひび割れるような錯覚。
一気に氷点下まで落ちた体感温度に成実は身をすくませた。
「政宗様!一体何をお考えか!忍の鷹ならば忍鳥も同義ですぞ!」
喚く小十郎を非難するように鷹が大きくぴゅーい!と鳴く。
人と獣の睨み合いのなか、政宗はやれやれと煙管を取り出した。
小十郎は鷹との睨み合いで気づいては居ない。
政宗はゆったりと火を付け紫煙を吐き出した。
「悪い奴じゃあねぇよ、なぁ?」
投げ掛けられた声は窓の外。小十郎を視界から追い払った鷹が嬉々と高らかに鳴く。
柔らかな風が部屋に満ち、次の瞬時には政宗の前に一人の忍が跪いていた。
「なっ!?」
「え?」
反応が遅れた小十郎と成実を余所に、政宗は悠々といった風体で忍を見る。
「久しいな」
「はい、御身もお変わりなく息災何よりにございます」
にこりと笑う忍は今日は黒頭巾はしていない。
大きな黒目や形のよい眉、すっと通った鼻筋に唇の色は良い。
体調は万全らしかった。
「今日はどうした?礼ならもう貰ったが?」
美しい鷹は政宗に寄り添いつつ、親を見るような瞳で忍を見ている。
柔らかく笑った忍は決して道具とは言い難かった。
爛々と生気の宿る瞳は眩く、美しい。
生きた人間に違いなかった。
「本日は、独眼竜政宗様にお伝えしたいことが」
「てめぇっ!」
「小十郎、」
吼えたてる右目を諌めつつ政宗は忍の言葉を促す。
三つ指をついて一礼をした忍は恍惚とした瞳に政宗の姿を納めた。
「伊賀の里を生まれとします、私戦忍のと申します。以前貴公に命を救われて以来、感謝の念は尽きることがありません。私は意思なき道具でした。しかしおこがましいとは思いますが、あなた様の剣になりたいのです」
「へぇ」
「奥州筆頭、独眼竜伊達政宗様。あなたの瞳に、運命を見ました」
驚きの色をした政宗の口笛が鳴り響き、小十郎は開いた口が塞がらない様子でを見る。
が浮かべるふうわりとした笑みは、場違いなほど女らしく、色香を他漂わせていた。
「あなたにお仕えしたいのです。あなたにすべてを捧げます。不要と言うのならばあなたに殺して頂きたい。この命も体も差し上げます。魂の一片までもあなたの為にお使いしたい。ただひとふりの刀でもいいのです。あなたのお側に、お仕えさせてください」
まるで熱に浮かされたように上気する頬に潤む瞳。真っ直ぐに政宗を見つめる瞳に成実や小十郎は入りはしない。ただただ盲目なまでに政宗だけを見つめていた。
「、か」
「っはい・・・」
名を呼べば蕩けるの表情。まるで情事の最中かのように、の吐息は熱っぽい。
「その覚悟に偽りは?」
鋭く飛ぶ政宗の視線。
それにさえは身を震わせてああ、と官能に似た声を溢す。
「あなたを謀る位なら、自ら死んで見せましょう。あなたは私の神同然。この忠義が偽りというのならば、きっとこの想いは愛ということでしょう」
瞬きさえ惜しいとばかりに、の瞳は政宗を納め続ける。
熱烈なまでの愛と忠節。
政宗は堪らずに肩を震わせ、くつくつの喉を鳴らして口許まで覆った。
「Crazyだな」
「異国語は解しませぬが、政宗様から賜った言葉であれば、私は一生大切にいたします」
うっとりと笑うに嘘はない。
全身から滲む政宗への想い。
暫く肩を震わせた政宗は、へと腕を伸ばしてその細い顎を捕らえた。
「いいだろう。今この瞬間から、お前はこの伊達政宗の所有物だ。、俺のために馬車馬のように働けよ?You see?」
吐息が触れるほど近く、貫く独眼にの心臓は煩く跳ねた。
感激に返事は音にならず、美しい鷹の声高い鳴き声だけが大きく響いた。
「はい」
年若い主の声は、怒りや不条理もなく、ただただその身を案じる思いが含まれていた。
忍はこくりとひとつ頷いて、その手の書状を差し出した。
退職願、と達筆な筆遣いで書かれた文字に、幸村はどうしてもか、と置いていかれる子供の眼で忍を見る。
「心から、お仕えしたい方に出会いました」
「、」
「魂が吼えるのです。あの方に支えよと」
幸村様もご存じでしょう。
言えば幸村は声もなく喉をつまらせた。
幸村は武田信玄と言う絶対の君主を得ている。
そう、魂が騒ぐのだ。唯一絶対の主を前にすれば、人間の理性など儚くも塵となる。
仕方がないのだ。
魂が、そう騒ぐのならば。
それは誰にも止められない。
「私は、あの方に支える為に生まれたのです」
「心変わりは、ないのだな。」
「幸村様は、真に素晴らしい武士様でしたよ。ですが私には、」
にこりと微笑んでみれば、泣き出しそうに幸村も笑う。
「・・・達者で」
「幸村様も、お体にはお気をつけください」
ひゅうと一陣の風が吹き、瞬きの合間にの姿は消え失せた。
残された書状を開けば、小さくも丁寧に今まで有り難う御座いました。左様なら、真田幸村様、と記されている。
悲しくなる程、美しい文字であった。
「・・・行くの?」
「あなたに私を止める権利はないわ」
「上司に向かって酷いもんだ」
「大本は幸村様です」
「」
「佐助、離して」
ぐいと捕まれた腕に込められた力はいくらか強い。
鋭くなる視線に佐助はため息をついて手を離した。
「冷たいもんだねぇ、恋人に向かって」
「元、をつけてよ」
「ねぇ、真田にいなよ。抜け忍なんて大変なだけだ」
同郷の美しい忍を思い出してか、表情を歪ませる佐助をは鼻で笑う。
「私はかすがみたいに間抜けなことはしない。里には話をつけてある」
「旦那は?」
「お許しをいただいている」
「俺様には?」
「・・・佐助、いい加減にして。私は幸村様のお言葉を頂いた時点で真田とは無関係なのよ?」
苛立ちを孕む声を放てば佐助は苦しげに呻く。
忍らしくない惨めな姿だった。
酷いものである。
男は女に狂い、女は恋に狂う。
「次に会う時は、敵同士よ」
屹然と言い放てば、佐助の腕が再び伸びた。
の背に回されたそれはきつく体を抱き締め、夜の闇から影をひとつ消す。
「、生きろよ」
死ぬなとは言えない。
主のために死ぬのが忍だ。
だからどうか、せめてそれまで。
伝う心音は苦しくなるほど穏やかで、は少しだけ迷いつつも佐助の背に腕を回し返した。
「佐助も、元気でね」
いつ死ぬかも知れぬ我が身を持ちつつ、愛した主の為に生きねばならぬ。
快活に笑う幸村の笑みを思い出しつつ、はそっと喉を震わせた。
左様なら、
夜の空に滲むその声。
佐助は黙らせるようにの唇を塞いで、最後の言葉を喰い尽くした。
***
あれから一日を置き、政宗の鷹狩りと言う名の逃亡から七日が経った。
その政宗が米沢城に帰還した頃、門前に哀れな兵達が丸太にくくりつけられ放置されているという椿事が見受けられた。
慌てて縄をほどいてやれば、朦朧とする意識の中で兵達は「か、片倉様が」と溢して気絶する者数名。
全員政宗の鷹狩りに付いているはずの兵たちだった。
腹をくくるしかないとため息を吐いた政宗は、知らぬ間に戦場と化していた居城に進み入ったのだった。
ようやく帰還の知れた主に小十郎は有無を言わさず正座を強要する。
鬼の右目に射竦められながら正座をさせられるのは奥州筆頭独眼竜伊達政宗。この国の王である。
思わぬ主従逆転劇に成実は笑みを堪えた奇妙な表情で事の成り行きを見守った。
「・・・政宗様、申し開きはありますか?」
硬い小十郎の声に政宗はそろりと身動ぎする。見上げる小十郎は鬼か阿修羅か不動明王のそれだ。
ひやりと冷えた肝に救いを求めようと成実を見たが、視線が合う前に顔を背けられた。
「薄情者っ!」
「政宗様!」
瞬時に叱りつけられた政宗はああ、と低く呻いてどうしたものかと思考を走らせる。
「確かに。確かにこの小十郎は政宗様の鷹狩りをお許ししました。ですが!配下も付けずにお一人で行くなど!しかも居場所も告げず!さらには七日も雲隠れ!」
「お、落ち着け小十郎」
「今御身が無事なのは一重に幸運からですぞ!?あなたの責務をお忘れか!」
「ま、待て、政務は終わらせてたぞ」
「あなたの不在がどれだけ大事かご自覚ないのですか!?」
天下を取ると誓ったからには、犬死になどは許されない。
怒りに轟々と燃える小十郎に睨まれ、政宗はとうとう小さく謝罪を述べるのだった。
「・・・暫く反省してください」
性根は真っ直ぐなのだ。
それを知っているから一度謝られればもう叱れない。
甘いと自覚しつつも、きりきり痛む胃の命じるままに小十郎は怒鳴るのを止めた。
うなだれる政宗にあの鷹が窓辺でぴゅーい、と鳴く。
ひらりと室内に入り込み、鷹は政宗を慰めるように擦りよった。
「あー、ありがとよ」
まるで人語を解するのか。鷹はもう一度ぴゅーい、と鳴いて政宗の手に擦り寄る。
篭がなくても逃げず、誰彼構わず襲うこともない。しかし政宗以外にはとんと懐かない。
主を定めるとは驚くほどに知能の高い鷹。
誰もがその鷹を羨ましがり一目置いていた。
「政宗様、その鷹はどの様に捕らえたのですか?」
弓や縄の跡はない。
美しいまま鷹を捕まえるのは至難の技だ。
しかも、大人の鷹である。
調教もせずにこれなのだから、気になることは尽きない。
「貰った」
「貰った?」
「あぁ、忍に」
瞬時ぴしりと空間がひび割れるような錯覚。
一気に氷点下まで落ちた体感温度に成実は身をすくませた。
「政宗様!一体何をお考えか!忍の鷹ならば忍鳥も同義ですぞ!」
喚く小十郎を非難するように鷹が大きくぴゅーい!と鳴く。
人と獣の睨み合いのなか、政宗はやれやれと煙管を取り出した。
小十郎は鷹との睨み合いで気づいては居ない。
政宗はゆったりと火を付け紫煙を吐き出した。
「悪い奴じゃあねぇよ、なぁ?」
投げ掛けられた声は窓の外。小十郎を視界から追い払った鷹が嬉々と高らかに鳴く。
柔らかな風が部屋に満ち、次の瞬時には政宗の前に一人の忍が跪いていた。
「なっ!?」
「え?」
反応が遅れた小十郎と成実を余所に、政宗は悠々といった風体で忍を見る。
「久しいな」
「はい、御身もお変わりなく息災何よりにございます」
にこりと笑う忍は今日は黒頭巾はしていない。
大きな黒目や形のよい眉、すっと通った鼻筋に唇の色は良い。
体調は万全らしかった。
「今日はどうした?礼ならもう貰ったが?」
美しい鷹は政宗に寄り添いつつ、親を見るような瞳で忍を見ている。
柔らかく笑った忍は決して道具とは言い難かった。
爛々と生気の宿る瞳は眩く、美しい。
生きた人間に違いなかった。
「本日は、独眼竜政宗様にお伝えしたいことが」
「てめぇっ!」
「小十郎、」
吼えたてる右目を諌めつつ政宗は忍の言葉を促す。
三つ指をついて一礼をした忍は恍惚とした瞳に政宗の姿を納めた。
「伊賀の里を生まれとします、私戦忍のと申します。以前貴公に命を救われて以来、感謝の念は尽きることがありません。私は意思なき道具でした。しかしおこがましいとは思いますが、あなた様の剣になりたいのです」
「へぇ」
「奥州筆頭、独眼竜伊達政宗様。あなたの瞳に、運命を見ました」
驚きの色をした政宗の口笛が鳴り響き、小十郎は開いた口が塞がらない様子でを見る。
が浮かべるふうわりとした笑みは、場違いなほど女らしく、色香を他漂わせていた。
「あなたにお仕えしたいのです。あなたにすべてを捧げます。不要と言うのならばあなたに殺して頂きたい。この命も体も差し上げます。魂の一片までもあなたの為にお使いしたい。ただひとふりの刀でもいいのです。あなたのお側に、お仕えさせてください」
まるで熱に浮かされたように上気する頬に潤む瞳。真っ直ぐに政宗を見つめる瞳に成実や小十郎は入りはしない。ただただ盲目なまでに政宗だけを見つめていた。
「、か」
「っはい・・・」
名を呼べば蕩けるの表情。まるで情事の最中かのように、の吐息は熱っぽい。
「その覚悟に偽りは?」
鋭く飛ぶ政宗の視線。
それにさえは身を震わせてああ、と官能に似た声を溢す。
「あなたを謀る位なら、自ら死んで見せましょう。あなたは私の神同然。この忠義が偽りというのならば、きっとこの想いは愛ということでしょう」
瞬きさえ惜しいとばかりに、の瞳は政宗を納め続ける。
熱烈なまでの愛と忠節。
政宗は堪らずに肩を震わせ、くつくつの喉を鳴らして口許まで覆った。
「Crazyだな」
「異国語は解しませぬが、政宗様から賜った言葉であれば、私は一生大切にいたします」
うっとりと笑うに嘘はない。
全身から滲む政宗への想い。
暫く肩を震わせた政宗は、へと腕を伸ばしてその細い顎を捕らえた。
「いいだろう。今この瞬間から、お前はこの伊達政宗の所有物だ。、俺のために馬車馬のように働けよ?You see?」
吐息が触れるほど近く、貫く独眼にの心臓は煩く跳ねた。
感激に返事は音にならず、美しい鷹の声高い鳴き声だけが大きく響いた。
想像妊娠で生まれた
子ども
子ども
title by 暫