「大丈夫か?
「は・・・は、い」

廊下から聞こえる声はとても大丈夫そうには聞こえねぇ。
たぶん顔面蒼白みたいなの顔色を思い浮かべてしまった。隣の幸村も同じこと考えてるらしく、忙しなく机と廊下と視線を行き来させていた。
元親に支えられるみたいにして居間に帰ってきたの顔色は、思った異常に蒼白で逆にこっちが息を飲んじまった。
ほんと大丈夫か?

ちゃん大丈夫?あったかいお茶だよ」
「ありがと、ございま、す」

病み上がりの病人みたいな、危なげな手つきで湯飲みを受け取った
すっかり指定席になった佐助の正面に座り、こくりとゆっくり唇を湿らせていた。

、お前顔色やべぇぞ?」
「お母さんに反抗・・・しちゃった」
「あ?お前母親の言いなりなのかよ」

違うけど、と口篭るの顔には違いませんと書いてある様に見えるけど?
もしもそれが本当なら、俺がコイツに感じた親近感は、紛れもなく正解に近いものなんだろうと俺は思う。
家庭内から爪弾かれて、居場所がなくて、押しつぶされそうになる気持ちはわからなくはない。

「私の家、兄さんも姉さんも反抗的って言うか・・・あんまり、親の言うこと聞かなかったの。だから両親はお前だけは、っていつも私に言って世間体とかもあったんだけど、私だけは”普通”の娘でいて欲しかったの。答えははいだけでよくて、私の意見とか、あんまり言える空気じゃないときが多かった」

から、とはいったん言葉を切る。
両手に包んだマグの中で緑茶が触れていた。震えは、寒さではないことくらいわかっていた。

「なのに、家出、とかしちゃったし。帰らない、とか言っちゃった・・・お母さん、泣いてた。でも、私・・・」

滲むの言葉尻。
整理のつかない心が、どうしようもないのだろう。俺たちは誰も、に続きを促さなかった。

(こいつは、)

馬鹿だと思う。
優しすぎるから痛い目を見るんだ。家族だって別の命だ。言ってしまえば他人でしかない。血が繋がっていようと別の体。自分ではない。許しすぎてしっぺ返しを食らう。当然だ。馬鹿だ。もっと非情になれば、そんな思いはしなくていいのに。

俺はの兄姉を思ってみた。
要領よく親から逃れ、しわ寄せを末妹に与える。
自分がしたいようにやる合理性。
は馬鹿だ。みんなに気を遣いすぎてこうなったのだから、自業自得としか言いようがない。

(けど、)

家族を愛し、心を痛めて申し訳なく思える程のその気持ち。
その優しさは、死ぬほど羨ましいと思った。
そんな風に思えるも、そんな風に思われるの家族も。

俺も、家族をそんな風に愛せられればよかったのに。
今日ばかりは心底そう思わされた。

そう思った。