暫くして、わぁわぁ!と泣き出してしまった殿!
な、なぜ!?
今まで笑っておられたのに!?
元親殿や政宗殿、佐助さえもそれをニコニコと見詰めている。
な、なぜ!?

殿、か、悲しいでござるか!!」

思わずかじりかけのエビフライを落とすと佐助に叱られた。
だがしかし!それどころではないだろう佐助!!

「ち、がう、よ・・・」

両手を交互に目元を拭う殿。
その手は光っている。
涙だ!ど、ど、どうしよう!!

、殿・・・」
「違う、の。幸、村くん・・・ちがっ、う、うれし、く、て・・・」

俺は、自分がすごく非力だと思う。
どんな時も、何もできない。
こんなにも、何かしたいのに!!

殿・・・泣かないでくだされぇ」
「おいおい、幸村ぁ、テメ、今までの話聞いてたのかよ」

ぺちん、と政宗殿が緩く俺の頭を叩く。
だ、だが、

「泣くのも大切でござる!で、でも、俺は殿は笑ってるほうが好きでござる」

言ってしまった言葉を戻すことはできない。
政宗殿がにやにやと笑ったことでおれは、自分がなんてことを言ってしまったか思い返してしまった!!

「ちがっ!けっして破廉恥な意味では!!」
「幸村ハレンチー!!」
「むぁさむね殿ぉ!!」

やれやれとばかりに元親殿と佐助はこちらを見ている。
いささかあの大人ふたりは放任過ぎではないか!?

「幸、村、くん」

くい、とシャツの袖を引かれた。
殿は俺から見れば、政宗殿よりも年上の大人なのに、なんだかすごくそうでもないように思えた。
なぜだろう?
頼りなく、小さなお方だ。俺とそう変わらない背丈だからだろうか。
そうだ、よくお館様もいっておられた。
男は女を守らなければならないと。

「あり、が、と」

涙を零しながらふにゃりといった感じで殿が笑った。
本当は、殿は今いっぱい泣かなければならないのに。
泣いて泣いて、つらいことを全部吐き出せといわれた。
それなのに、きっとまだ全部吐き出せていないのに。

殿、その・・・すみませぬ」

無理をさせた。
どうしよう!
政宗殿、元親殿、佐助を順に見ても、どいつもこいつも笑ってばかり!!
まったく放任過ぎるぞ!!
あああもうここの大人は皆頼りにならぬ!!

殿!!」
「うん・・?」

納まりだし涙の最後の一滴を拭った殿。
ほんのり赤まった目元が潤んでいた。

「その・・・お、俺が殿をお守りいたしますゆえ!!ぞ、存分に、泣いて、笑ってくだされ!!」

張り上げた声に殿は驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返した。
やっぱりその姿はとても大人には見えない。

「幸村くん、ありがとう」

ふわりと笑った殿の笑顔に、俺の胸が熱くなった。
うむ、家族とはすばらしい!!
俺はそう決めつけて、もう政宗殿たちの顔は見なかった。