結局泣きやまない私に気を使ってくれた佐助さんが「お風呂いっといで」と声をかけてくれた。
バスタオルを受け取り、政宗さんが今日買ったばかりの下着を渡してくれる。どうして恥ずかしくないんだろうと思いながらも、突っ込む気力がなくておとなしく風呂場に向かった。

「・・・わたし、甘えてるなぁ・・・」

ぱしゃんと湯で顔を洗う。
温かいお湯がはれた目にじんじんと沁みた。
優しい人たちばかりだ。
元親さん、佐助さん、政宗さん、幸村くん。
耳に残るありがりがとうの響きにおもわずにやけてしまった。気持ち笑いなぁ自分。
家族に、悪いと思っている。
でも、ここの生活は、優しくて、心地いい。
泣き過ぎて腫れたまぶたが少し重い。
湯船に幸村くんのだろう黄色いアヒルを泳がせながら、小さくあくびを零した。

「泣き疲れて眠いって・・・子供みたぁい・・・」

ぱしゃんと音を立ててもう一度顔を洗った。
そのとき同時に脱衣所の扉がガラ!と音を立てて開いたらしい。
思わず湯船に体を沈めて様子を伺う。
風呂場の扉の向こうの曇り硝子の人影に一体なんだろうとうるさい心臓がどくどく言っている。
耳まで湯船に使った成果音が体全体に反響してかなりの音になっていた。

、悪いな。ちぃと簡単な鍵つけようと思ってよ」
「か、鍵ですか?」

声からして元親さんみたいだ。
背中しか見えない。覗く気はないらしい。あんしんだぁ。

「おう。今まで男所帯だったからあちこち無法地帯だけどよぉ。とりあえず風呂場と便所とお前が寝てる部屋にはつけねぇとなぁって思ってよ」
「えぇ!?べ、別に大丈夫だと思うんですけど・・・」
「あのなぁ。お前箱入りにも程があんだろ。男4人だぞ?」
「え?はい」

外からすごいため息が聞こえて思わず元親さんの名前を読んでみたけどノーリアクションだ。どうしたんだろう?

「ん、まぁ、備えあれば憂いなしってやつよ。気にすんな。よし、出来たから後で鍵閉めとけよ?」
「あ、はい」

ガラガラ、と引き戸が閉じる音。
聞こえた後に間をおいて元親さんの言うとおり鍵を閉めてみた。たしかに、他人様の家だし、家主の言うことは聞いておくべきだしね。
もう一度湯船につかり、酸素を吐き出す。
気持ちいい湯の温度にすっかり悲しい気持ちは解けてしまっていた。
その次の瞬間だった。

「あ!?んだこれどうなってやがる!」
「政宗殿!だめでござる!だめでござる!!」
「え、なになに?」

脱衣所の扉だ。今鍵を閉めたばかりそのそこを無理やり開こうとがんがんと変な音が聞こえる。

「ま、政宗さん?幸村くん?」
「おい!なんであかねぇんだよ!」
「さっき元親さんが鍵つけて・・・」
「鍵!?いやにtimelyだな!」
「政宗殿!破廉恥!破廉恥でござるぞ!!」

扉2枚隔てた向こうの幸村の騒ぎようは尋常ではない。
もしかしてもしかすると・・・

「政宗さん。まさか思いっきり覗きにきたんですか?」
「It's all right!」
「ちょ、やだ信じられないっ!!」
「おいおい女は基本的に見せたがりもんだぜ?」
「あなたの基本はおかしいよ!!」

見られて困るほどのないスバディでも貧乳でもないけど恥ずかしいことには変わりはない。
見えないとはわかっていても恥ずかしいのでついつい浴槽の中で身を屈めて体を抱きしめた。
政宗と幸村がまだ見せろ!破廉恥!と叫んでいたが、もう一つ足音が聞こえたかと思うと盛大な悲鳴が二つ上がった。

「うるさいよ!近状迷惑でしょーが!!」
「さ、佐助、何故俺まで殴る!俺は政宗殿をお止めしようとしてっ」
「横暴だぞ猿!!」
「だからうるさいってんでしょーが。第一いつまでもここにいたらちゃんが上がれないだろ?」
「うっ」

まじめな幸村くんは言葉につまり、政宗さんはよくわからないけど英語で反論しているみたいだった。
その後佐助さんのお叱りがまた飛んで、どうやら二人とも退散したらしい。

「ごめんねー。もうどっかいったから大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます佐助さん」
「気を悪くしないでね。政宗はあれでもちゃん元気付けようとしてたみたいだから」
「あれで・・・?」

とてもそんな風に思えなくて言葉に詰まってしまったら、外で佐助さんが笑ったのがわかった。

「バカだからねぇ、政宗も幸村もちゃんも」
「私もですかぁ!?」
「当たり前じゃん。ほら、逆上せないうちに上がっておいでよ。食後のデザートにシャーベットあるからね」

ウィンクしてる顔が思い浮かぶほどの朗らかな表情が思い浮かぶ。
気を、遣われている。
でもそれはとても優しくて、思わず頬を緩めながら私は佐助さんに返事を返した。





あまやかな世界