たん!
と地面を蹴るのについ力が入る。
学校も好きだが家も好きだ。
変えれば大体の確立でおやつが用意されている。
中学生にもなっておやつなど如何なものかとも思われるが俺は甘いものに目がない。
特に佐助の団子が好きだ。
市販のものよりも柔らかくもちもちした団子に濃すぎず薄すぎぬ甘いたれは絶品。
いつも何故佐助がそういった職に就かないのかが不思議に思われるくらい佐助の団子はうまい。

「ただ今帰ったでござるー!」

いつも一番最初に帰るのが自分だとわかっていても挨拶を怠らないのはお館様の教えだ。
家の塀をくぐり玄関の植木鉢を持ち上げる。

「鍵がない?」

元親殿が鍵を持っていってしまったのだろうか?

実際それは今まで何度かあるので仕方なく佐助が全員分に合鍵を作ってくれている。
ごそごそと鞄からそれを引っ張り出し鍵穴へとつっこんだ。

「ただいまでござるー」

さっきよりも幾分音量の下がった声で玄関で靴を脱ぐ。
そう言えば、朝からあった知らない靴がまだある。
スニーカーだ。政宗や佐助のものにしては小さい(元親殿など論外だ!)
そうして家に入ってなにか違和感。
なんだろうと俺は首をかしげる。

「・・・部屋が、きれいでござる」

いわゆる男所帯と言う家が清潔に保たれる事は少ない。
家事ができる人間がいるがやはり仕事との両立は厳しい。
のでほおって置けばすぐ家事が滞る。その家がきれいだ。
とりあえず居間を見回せば脱ぎ散らかしていた男4人分の服はきれいにたたまれているし、テーブルの上もすっかりきれいになっている。
今朝は洗いものする時間がなかった朝食の皿などもきれいに洗われていた。
「いったい誰が?」

鍵がかかっていたから元親殿だろうか。
しかし元親殿は家事をしない。
第一今日だって仕事だったはずだ。
では誰が?

突っ立ったまま首を傾げれば部屋の真ん中で何かが動いた。
ソファだ。
テレビを見るときのお気に入りの場所。
そう言えば朝あそこに誰かが眠っていた。
思ったら即行動。
俺は忍び足でソファへと近づき首を伸ばし、思わず言葉を失った。
見知らぬ人が眠っている。
これならまだいいが相手が女の人だと思うとパニックにもなる。
男所帯で鍵のかかった家に見知らぬ女性。

俺は叫びそうになる心を何とか押しとどめ部屋を出て携帯を握り締めた。
履歴を押して即コール。
数回の発信音の後、電話の先で呑気な佐助の声が聞こえてきた。

『もしもし?幸村?どしたのさ、あ、団子なら戸棚の奥だよ?』
「そうか、わかった・・・じゃなくて!!」
『ちょ、なに?声大きいよ!!』

佐助の方が大きいぞ。と言おうとも思ったがそれでは話が進まなさそうなので仕方なくこっちが折れてやる。

「佐助!う、うちに白雪姫がっ!!」
『はぁ?』
「部屋がきれいなのだ!それで、見知らぬ女性が眠っておる!!」
『・・・幸村、欲求不満なら俺様じゃなくて政宗のほーに聞ーてごらん。俺様まだ仕事中なの。判った?じゃね』
「佐助っ!!」

無常にもぶち、と通話が切られる。
薄情者めっ!!
内心でそう叫んで、それでも言われたとおり次は政宗殿に電話する。

『Ahーどうした幸村』
「ま。政宗殿!お、落ち着いてき、聞いて欲しいでござる!!」
『Ok,まずテメェが落ち着け』
「俺は落ち着いている!そ、その!うちに見知らぬ女性が寝ておるのだ!!」

受話器の向こうで政宗殿があー、と少し考えたように間延びした声を出す。

『そこの女、まだ寝てんのか?』
「それはもうぐっすりでござる」
『Sleeping Beauty(眠り姫)かっての。たぶん元親が拾ったやつだろ。ほっとけ』
「し、しかし!」
『すぐ帰る』

そうして政宗殿もすぐに電話を切る。
まったくドイツもコイツも。
ちゃんと俺の話を聞いて欲しいもんでござるよ!