「幸村!!」

それからさらに三月。は漸く帰城した。
城には手練の忍たちを多く残していた為幸村が奪われることもなく、敵に侵入を許すことさえなかった。
小田原急襲は当然の如く成功し、織田を討ってとって帰ってきた疲弊した武田上杉伊達の同盟軍を叩くのは容易い。
彼らとて自国領の安全と国力の回復が必要であったので、兵力も武力も欠けていないと真っ向とぶつかるのは得策とは言えなかった。
しかしそこで驚いたのが国境まで追い詰めた連合軍。そこで上杉が武田を逃がすために捨て奸を決行。武田よりも損害がなかったとは言え、なんて頭の悪い決断か。軍神と名高い上杉も耄碌したかとは笑い、高らかに采配を奮ってやった。
武田信玄と上杉謙信の因縁は深い。互の首は互いのものと言わんばかりにこの戦国で生温い戦を繰り返していたくちだ。それが仇になったか、哀れ軍神。神速の名もあっけなく銃弾の雨に倒れた。
それを思い出すとは今でも笑いが止まらない。なんて愚か!なんて喜劇!
どちらも天下を欲した癖に、雌雄などに拘った所為で足を引っ張り合った。友情だの情けだの。くだらない。まったくもって馬鹿馬鹿しい。好敵手との決闘の為にその身を盾にして死んだ。死んだのだ!
上杉軍を駆逐し、上杉領を半分幾らか占拠したが残りの領地は伊達武田に分割して奪われてしまった。しかし問題はない。
軍神を倒したという事実があれば事足りる。それは他国に対する十分な牽制になるのだから。

城に戻り部屋につくまでの歩きすがらに軍装を解き鎧を脱ぎ捨てる。汗も返り血もそのままに、は幸村の部屋の戸を勢いよく開いた。
三ヶ月ぶりに見た幸村はすっかり血色を取り戻し、肉体も以前のとおり瑞々しく若い肢体を取り戻している。の長い不在の間、体を鍛え直したいと申し出があった所、いずれのものになるのだからと快く了承を近衛を通して出してはいたが立派なものである。申し分なく鍛え上げられた幸村の肉体は、戦場に駆ける鋼を思わせた。
幸村はといえば帰城は知らされていたものの、まさかいの一番に会いに来るとは露にも思わずあからさまに驚いていた。しかしそんなことの知ったことではない。ここはの城だ
の領地にあるの天下だ。この国で、城でが望むままに行動して何が悪い。
はそのまま勢いをつけて幸村を突き飛ばし、不意打ちに転がる幸村に跨った。
幸村はといえば頭を畳に強かに打ち付けたらしく、軽い痛みに星を飛ばす。

「勝ったわ!幸村!!」

は幸村が何か言う前に身を乗り出し、そのまま声を発しようとする幸村の唇に蓋をした。
舌を捩じ込み絡め取る。驚き逃げようとする幸村を許さず、は野蛮な獣のように涎を絡め角度を変えてはぴちゃぴちゃといやらしく口を吸う。
城内を駆けたせいでの呼吸は荒く、熱っぽい酸素が吐き出されるたびに血の匂いと混じって幸村はくらくらとした。
どれくらいそうしていただろう。その細やかな体を押し返すこともできずの行為を受け入れていた幸村はとうとう酸欠に喘ぎの肩を押し離した。その耳まで赤くした幸村の表情に、は声を立てて笑う。

「とっ、突然なにをなされるかっ!!」
「戦の猛りよ。どうしょうもないじゃない。あなたも覚えがあるでしょう?幸村、今すぐあなたが欲しいの」
「なっ!?貴殿はまだ十四でござろう!!」

的はずれなことを叫ぶ幸村のおかしな事。はとっくに子も産める体であるし戦場では大将首も落とす戦女だ。今更情を交える程度のことなどなんてことはない。

「もう十五よ。戦場で迎える誕生日程味気ないものはなかったわ。それに贈り物一つくらいしてくれてもいいんじゃない?」

馬乗りの状態のまま幸村の股を撫でる。
固く膨れ上がったそこは正直だ。は得たり賢しと口元を釣り上げ、優しく袴の上から幸村の男根を撫であげた。
幸村を捕らえて半年以上、は人の欲求である食欲と性欲を幸村から奪った。
手ずから食事を与えることで、今まで幸村の欲求のひとつを支配していることを無意識下にすり込んだ。
そしてもともと薄かったのだろう性欲は露わになることはなく、一時は不能なのかと危惧したものだが、歪に再構築された一見正常な精神の元にてついに露呈する。
は手練手管の指捌きで下帯の上から幸村の魔羅を扱く。
随分久しぶりだったせいか、熱はあっという間に膨張して抑えが効かない。

「なっ、に、を・・・!」

真っ赤になって叫ぶ幸村には舌なめずりし、淫猥に微笑む。とても十五の娘の瞳ではない。
我知らず生唾を飲む幸村は、血と汗の香りを纏うの色に惑わされ堪えきれずに絶頂に突き上げられた。
久しい吐精の感覚に、背筋を走るむず痒さ。まだ足りぬと貪欲に硬さを保ったままの男根に、はうっとりと夢見心地でささめいた。

「わかるでしょう?幸村、私とて人間です。たまらなくなるの。おねがい、ゆきむら、あなたが欲しいの。私にはあなたが必要なの。幸村、ちょうだい。あなたが欲しい」

それはまるで溶けた鉄のように、の声音は幸村に注がれた。
接触致死の熱量だ。息も出来ず、何も考えられない。抗い難い官能の気配が手招きしている。
は幸村の抵抗が弱まった隙に、着物を脱ぎ捨て襦袢に手をかける。
むっと広がるのは牝の匂いだ。小ぶりながらも美しい、瑞々しく潤う果実がふたつ。幸村は総毛立つ。欲しい。餓えが、腹の底からけたたましく咆哮を上げた。
欲情していた。この、血と、汗と、死の香りを纏う少女の形をした女に。

「幸村、致しましょう?」

さくらんぼのような小さな唇が可愛らしく色を放ってそう告げる。
噎せ返るような甘い匂いに浮かされて、気付けば両の手はの胸の膨らみをまさぐっていた。
それだけではちっとも足りない。足りない。足りない。
幸村は噛み付くようにの唇にしゃぶりつく。

「あっ、ん・・・幸、村ぁ・・・」

吐息が漏れるたびに甘い匂いが濃くなってゆく。
いやらしく身じろぐの長い髪が白い肌に張り付いていた。
艶かしい白と黒の陰影に、幸村はとうとうを押し倒す。

殿っ、殿っ・・・!」
「ふふ、いいのよ。幸村、もっと呼んで。幸村、あなたが欲しい。誰にも渡したくない。幸村・・・」

歯の浮くような甘言は、幸村が欲しくてたまらないものだった。
居場所などないこの城にひとり、どれだけ心細かっただろう。刀を振るい槍を振るい、どれだけ頭を白くしても拭いきれない。疎外感。それと主君に見捨てられ、部下に裏切られた痛みは、この城での信頼を一身に受ける兵や忍たち見るたびに劣等感が膨れ上がっていた。
そんな寄る辺ない孤独な幸村を、は欲しいと、必要だと言ってくれる。
幸村は知らぬ間に泣いていた。
子供のように憚らず、溢れる涙は大粒での肌を濡らす。

どのっ、どのぉ・・・」
「幸村、好きよ。好き、あなたが好きよ。ねぇ、私のものになって。幸村」

甘く、砂糖菓子がほろほろと崩れるように、の言葉は幸村に降り注ぐ。
そして蜂蜜のようにどろどろと、喉を焼く甘さで幸村の自由を奪っていった。

「幸村、かわいい幸村、泣かないで」

柔く髪を撫で頬を啄む。涙の筋が塩辛い。ぐずぐずと泣き濡れる青年の杭を両手で包み、は母の如き微笑みで下腹部へと導いた。

「いいのよ、おいで」




濡れた暗闇のなかで静かに歪む