それを見つけたのは国境の防衛戦の最中であった。 天下にのし上がろうとする武田信玄と、それに対立する我が父。 小国ながら鉱山を有し、上杉武田の戦においては要所とも呼べる位置にある国。さらには高い製鉄技術によって銃の所有数は織田に次いで高かった。 家とて天下を狙えぬわけではない。しかし父は知っていた。己が天下を御する器ではないことを。そうして機が熟すのを耐え忍び、亡くなる間際にこう言った。 「お前がの名をもって、天下を取れ」 と。今際の際に、そう言った。 父の死が広まる間もなく武田信玄は我が国に進軍を開始。 鮮やかなほどの行動の速さは、情け容赦の欠片もない。流石実の父を放逐した男だとは笑う。 しかしとて国を預かる身、女だてらに文武を極め、虎視眈々と機会を狙ってきたのだ。 父は養子も取らず、次の子を成すこともしなかった。それに、の父は事あるごとにこう言った。 「お前は完璧だ」と。 十二で家臣団を纏め、十三で兵を掌握。それも父が死ぬ一年も前だ。 一年もあれば備えは十二分に出来る。武田の侵攻など目に見えていたは、鉛玉の雨で武田騎馬隊を打ち破り、大将としての初陣に華々しく勝ちを飾った。 最後まで抵抗を続け、無駄に死者を増やした武田には幾ばくか呆れを抱いたものだが、そこで見つけた赤い若武者。 炎を纏う青年からは視線が外せなかった。 「あれの名は判るかしら、近衛」 傍に控えていた男に問いかける。 忍でありながら侍然とした風体はが見繕ってやったものだ。 近衛と呼ばれた男は、が幼い頃からの世話役でもあり守役でもある。常に傍に置くにはこの方が都合が良かったので、近衛は常日頃から武士のように振舞っている。 「甲斐の若虎、真田幸村と思われます」 抑揚のない近衛の声を聞きながら、は望遠鏡で幸村の働きを見つめてうっとりと口元を綻ばせた。 「近衛、あれが欲しいわ」 金も、地位も、武器も、領土も、信頼も。は何もかも手に入れてきた。 望むものは手に入るべくしての元にやってきた。 だからこそ、が望んだ幸村は、の元に下るべきである。はそう考える。 「御意」 近衛が忍らしからぬ、にたりと蛇のような笑みを浮かべて膝をついた。 この男もずいぶん昔からに心酔している。 恐らく、近衛も幸村がの元に下るべきだ考えたのだろう。 近衛もまたに望まれ召し上げられたひとりなのだから。 |