初めて出会ったのは、曾爺さんの葬式だった。
黒いワンピースを着て、絵具を塗ったような白い手足が印象的だったのを覚えている。
今にも雨が降り出しそうな寒い日だった。
あいつは薄着で、俺の隣に立ってぼんやりと煙突から上がる煙を見送っていた。
俺もあいつも、曾爺さんとしゃべったことはなかった。
血の繋がりというだけでこの場にいる。俺たちは酷く浮いているような存在だった。
血統という柵に縛られた家の中だと、近親婚などさして珍しいものではない。
は俺の許嫁になった。
それもあの寒い曾爺さんの葬式の日だったが、俺は覚えてるはずもなく現状を受け入れるのに必死だった。
「あ、あの。政宗さん」
「・・・なんだ?」
「えっと・・・ごはんにします?おふろにします?それともわた」
「・・・・っ!?!?!?!?」
思わず飲みかけていたコーヒーが詰まる。
吹きだすわけにもいかず、飲みこんでせき込み続ける俺にはオロオロと背中をさすった。
「おい・・・誰に吹きこまれた」
「成実さんが、こう言ったら喜ぶって・・・」
「あの阿呆・・・」
は女子高通い。いわゆるお嬢様学校で生活している所為かどことなく幼いなままだ。
蝶よ花よと育てられ、俗世を知らないお姫様だ。
あの頃の子供のままの様で、なんだか申し訳ない。
俺はと言えば大学卒業すればそのまま親の会社に入ることが決まっている。
結婚相手まで決まっていると知って学生身分でありながらできる遊びはなんでもした。
綺麗なを前にすると、どうしても自分の行いを思い出す。居た堪れないのだ。
「ま、政宗さん・・・ごめんなさい・・・」
眉を下げて肩を落としてうつむくは全身から謝罪と落ち込みのオーラが伝わってくる。
これでは俺が悪者だ。
漏れた溜息にの肩が震えた。
じくじくと胃が痛む。全部成実の所為だ。
「は悪くねェよ。そんな気にすることじゃねぇよ」
「ごめんなさい・・・」
「いや、だから」
「ごめんなさい・・・」
堂々巡りの会話は一体何度目か。
再びついた溜息にの肩がまた震える。
乱暴に頭をかいて、の手を取ってソファに座られた。
「」
「は、い」
「俺たちの結婚は親が決めたことだ。あんたももしかしたら本当に好きな奴がいたかもしれない。俺と結婚なんざごめんかもしれない」
「そんな!」
「いいから聞け。他に好きな奴がいても俺は構わない。俺のことが嫌いでも構わない。だがな、そんな風にわけもなく謝んな。全部自分が悪いみたいな顔するな」
一息に言ってしまえばの瞳がゆっくりと涙に滲んだ。
ひくりと唇が歪む。
は俺が掴んでいない方の手で、そっと顔を隠して泣き声を上げた。
「泣く程俺が嫌か?」
「ご、め・・・なさっ・・・」
「だから、謝まんなって・・・」
「私、う、嬉しく、て」
「嬉しくて?」
問いかけにの首がひとつ頷く。
「政宗さんが、やさしくて・・・」
の言葉はいつだって水のように透明だ。
そして、俺の内側に沁み込んでいく。
湧き上がる感情は、綺麗に言えば愛情だ。率直にいえば支配欲だった。
「・・・」
泣いているの腰を抱き、顎を捕らえる。
涙に濡れた黒い瞳は宝石みたいに輝いていた。
化粧もよく知らない女だが、は綺麗だ。
「政宗、さん・・・?」
「キスして、いいか?」
ゆっくりと色の差すの頬。触れれば血が巡って暖かい。
は観念したかのようにきつく全身に力を入れるので、俺は苦笑まじりについばむ様にキスをした。
一瞬触れるだけのキスは、柔らかくて、懐かしい心地がする。
「次する時は、もうちょっとリラックスしてくれよ?」
「が、・・・がんばり、ます」
湯気が出る程全身を赤くしたに、初夜は遠そうだと苦しい覚悟をするしかなかった。
そのリボンからでておいで
title by 徒野