「さすけくん、さすけくん、帰りにミスド寄ろうよ」
「えぇー、太るよー?」
「太らない!映画見るおやつないの。100円セールだから右曲がる!」
「はいはい」

苦笑まじりに佐助が答え、重心を右にずらして角を曲がる。
きゃーとは嬉しそうに悲鳴を上げて、佐助の腰に抱きついた。
風が冷たい。
季節はすっかり冬で、はマフラーに顔をうずめながら佐助の背中に頬をすりよせた。
最近はすっかり外で遊ぶよりも家でだらだらとデートする方が心地よい。
新作の洋画のDVDが自転車のかごの中でカタカタと揺れている。
自転車を走らせ、耳と鼻を頬を赤くしたふたりは某ドーナツ店のドアを潜った。

「新発売とーぽんでとークルーラーとー」
「食べすぎ注意」
「佐助くん厳しい」
「普通だよ普通」

トレイに三つ四つとドーナツを乗せると並んで佐助も二つほどドーナツを取る。
甘いものはそれほど好きではない。
とりあえず両方の好物を選んでおく。あとではんぶんこしようと佐助は小さくひとりほくそえんだ。

「もういい?ちゃんレジ行こうよ」
「はぁい、あ、佐助くんそれおいしそうだね!あとで一口ちょうだいよ!」
「はいはい」

思惑通りと内心苦笑して、甘いものに目がない自分の彼女に愛しさが沸く。
子供みたいな表情。
ああ可愛いなぁとデレデレしてしまうのは仕方がない。なんてったって俺様の彼女だもん。
と佐助は小さく笑いながらの後ろに並んでレジカウンターに進んだ。

「いらっしゃいませ!お持ち帰りでしょうか?」
「え、なんでわかったの!?」

カウンターで店員の愛想のいい笑顔が一瞬固まる。
鞄から財布を取り出そうとしていた佐助も思わず財布を取りこぼした。
店員の方が小さく震えている。笑っているらしい。佐助も、腹筋が震えて仕方がない。

「佐助くんすごい!頭の中読まれちゃった!」
「・・・ぶはっ!!!」

その発言に耐えきれず佐助は吹き出してしまった。
それに気が緩んでか定員も口元を覆ってぶるぶると震えてしまっていた。

「え、なに?なに佐助くんなに?」
「いやっ・・・えっとっ・・・」

腹がよじれて言葉にならない。
ひーひーと笑いをこらえているとはたとの動きが止まり、それから見る見るうちに顔を赤くした。

「わ!わたし!先に外いるから!!」

叫ぶと同時にお金も払わずに外に飛び出してしまった。
佐助は笑いながらをレを見送り、カウンターで二人分の会計を済ませた。

「かわいらしい彼女さんですね」
「でしょ?」

店員の思ったままの感想が温かい。
佐助はドーナツが入った箱を受け取って礼を述べ、軽く会釈をしてからの後を追った。
自転車はまだ残っているがの姿がない。
そのまま走って逃げたのか。佐助は鍵をはずして駆けだした。後姿はすぐ見つかる。

ちゃーん」

間延びした声音で呼び掛け隣に並べば、寒さ以外で顔を赤くしたままのの横顔が見えた。
少し、涙目。これがまたかわいい。

「どうしよう馬鹿やだもう最低もうあの店は入れない!」
「大丈夫だってーレジの人しか聞いてなかったよ」
「大丈夫じゃない!」
「次も俺様一緒に入ってあげるからさ」
「それでもやだ!」

ううう、と顔を覆うの少し前に自転車を飛ばして道を塞ぐ。
立ち止り、少し涙目でこちらを睨んでくる表情の愛くるしさに佐助は思わず相好を崩した。目尻から滲む。ふにゃりと音がしそうであった。

ちゃん、かわいい」

往来で、大きな声ではなかったが、そんな風に言われてしまっては熱が高まる。
ああ、ああ、また顔が赤くなる。熱い。

「あーかわいい」
「もーやだ!早く帰ろうよ!」
「うんそうだね、帰ろうね」

マフラーに顔をうずめて表情を隠すが、生憎鼻先までしか隠れない。
赤くなりっぱなしのに表情崩しっぱなしの佐助。
器用に左手で自転車のハンドルを操り、右手をの指先に絡めた佐助は幸せそうに「かわいい、かわいい」と何度も繰り返すものだから、は先ほどの失敗など家に帰ることにはすっかり忘れているのだった。






恋の病をこじらせて


title by シュロ