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診断メーカーさんのヤンデレ真田幸村でお送りいたします。
耳に煩い程の雨音に嫌気がさす。
季節はすっかり春なのに、生憎の雨のおかげで桜はみんな散ってアスファルトを隙間なく埋めていた。
「はーあ。雨やだなぁ」
別段お気に入りというわけでもない雨傘。
薄いピンクに小花があしらわれたデザイン。高校生にしては少し子供っぽ過ぎるかと思うのだが、もったいないので壊れるまで新しものが買えない。
この雨ではどこかに寄り道するのも難儀なので、はさっさと家路につくことにした。
最寄りのバス停には同じ制服の学生たちの姿がまばらに見える。
随分長い間学校に残っていたせいだろうか。5,6人しか学生はいないのでこれならば席には座れそうだ。
そうしては何となしに制服のポケットから携帯電話を取り出して見る。
「連絡、なし・・・か」
花の女子高校生。
最近ようやく彼氏が出来た。二つ上の先輩で、サッカー部のエースストライカー。
自分にはもったいなさすぎる人なのだが、一目惚れした、なんていわれてしまえば告白に頷かないはずがない。
告白された日の事を思い出して頬が緩むものの、着信もメールもない携帯電話に気が沈む。
「一緒に帰ろうって、言ってくれたのに」
部活で忙しいのだろうか?
“ごめんなさい、先に帰ります”と精一杯絵文字やデコレーションで可愛い女の子を演じてバスを待つことにした。
丁度バスが見え始めたころだった。
遠目に人影を見つける。傘もささずに、誰だろうと目を凝らせばよく見知ったクラスメートの姿だった。
「真田、くん・・・?」
他に気づいているものはいない。
雨の中ずるずると足を引きずる様にして歩く幸村には言いしれない不安を覚え、バスと幸村を交互に見つめた後幸村の方へと駆けた。
「真田くん!どうしたの?雨なのに傘もささずに、風邪ひいちゃうよ?」
急いで自分の傘に幸村を入れてやり、ハンカチで前髪や頬を拭ってやる。
幸村はぼんやりとした表情でを見つめ返していた。
普段は女子が近づけば破廉恥と叫ぶ真田にしてはおかしい。は不安を感じつつも、抵抗しない幸村に出来る限り雨を拭いてやる。無気力な表情も相まって、なんだか泣いているようだった。
「真田くん、大丈夫?」
丁度バスが走り去り、次のバスを30分待たなければならないのだが今はそんな事を言っている場合ではないとは幸村を覗き込んだ。
首筋に、赤い水が流れている。
「うそ、真田くん?ねぇ、もしかして怪我してるの?」
未だ一言もしゃべらない幸村に、不安は頂点に達しはとうとう泣きだいそうな声をあげてしまった。
「怪我は、ない」
「そう、なの?ねぇでも血が付いてる。喧嘩とかしたの?バス停屋根あるから、そこで雨宿りし」
そう言い袖を引こうとした瞬間。幸村は急にの体を強く抱きしめた。
あまりにも突然なことには言葉を失い、乱暴に揺れた体は傘を取りこぼした。
雨が、冷たい。
「や、やだ、なに?真田くん!ちょっと!」
「・・・」
「真田くんってば!」
普段は名字で呼ぶ真田が唐突に舌の名前で読んだことに驚く。
それとここは往来だ。人気はないが、誰に見られているかなどわからない。
一応彼氏がいるのだ。付き合って日も浅いのに、喧嘩なんてしたくない。
「真田くん!離して!」
「あんな男、やめてしまえ」
「・・・え?」
なんのことかと、一瞬思考が止まる。
「あんな男。を騙そうとしていたのだ」
「なに?真田くん・・・ちゃんと、分かるように言って・・・?」
背中が冷たい。
ガシャンと場に似合わない金属音が響き、は横目で地面を見下ろした。
雨に打たれる傘の隣に、刃渡り15センチ程の刃物が転がっていた。
赤い血が付いた鋸にの背筋に震えが走る。
土砂降りの雨がコンクリートの地面に赤い水を広がせた。
「真田・・・く・・・」
ゆっくりと身を離した幸村の瞳は暗く淀んでいる。
いつも快活に笑い、純粋で優しい瞳はない。
雨水で増水した、濁流のような荒々しい光がそこにはあった。
「あの男はを騙していた。一目惚れなぞ嘘だったのだ。あ奴は仲間たちで賭けをしていた。一週間以内にを犯せるかどうかだ。それが今日だった。一緒に帰ろうとお前を呼びだして、複数の仲間たちでお前に乱暴をするつもりだったのだ」
「なに・・・言ってるの?真田くん、先輩がそんな・・・」
『、あいつ馬鹿だから簡単に騙せたぜ?今日一緒に帰ろうっつったらすげー真っ赤になってさー』
『馬鹿じゃねーのてめーみたいな地味女本気なわけねーだろっつーのに』
『でもほらあいつ意外と胸あるじゃん?結構楽しめるだろ』
『お前ほんと胸好きだよなー。俺足の方が好み。太すぎず細すぎずがたまんねー』
『ぎゃはははは、変態きめーな。じゃ、そろそろ主役のお迎えに行きますか』
『つまみ食いすんなよー』
『はいはい』
そこで会話が途切れた。
幸村がとりだした小型のテープレコーダー。
数人の男たちの声に、頭が真っ白になった。
「う、そ」
先輩、私のこと好きって言ってくれた。一目惚れだって。可愛いって。言ってくれたのに。
違うの?私、遊ばれてた?なんで?好きって言ってくれたのに。
乱暴するつもりだったの?なんで?なんで?なんで?
「」
幸村の声が、雨粒と一緒に降ってくる。
は呼ばれるままそっと顔を上げれば、雨に打たれる幸村の表情は泣いているように見えた。
泣きたいのは、こっちのほうだ。
「だがもう大丈夫だ。あのような屑共は生きていても何の価値もない。を傷つけるだけだ。必要のない塵だ。は何も心配しなくていい。すべて忘れればいい。某がいる。某はをそんな風に扱わぬ。大切にする。絶対に守って見せる。だから、これはもう捨ててしまえ。には必要ないだろう?」
そう言って幸村は血が付いて汚れた白い携帯電話を取り出す。
の携帯電話とおそろいのストラップが揺れ、幸村は優しく頬笑むと携帯電話お踏み潰し、了解もなくの携帯電話についていたストラップを引きちぎった。
「ね・・・ぇ。真田、くん・・・先輩、は・・・?」
「余所余所しい。某の事は幸村で構わんぞ、」
「ねぇ・・・真田くん!答えてよ!」
きょとんと不思議そうに眼を丸くした幸村は、それから、ぞっとするような壮絶な程の甘い笑みでの頬を撫でた。
「塵のことまで気にかけるとは、は誠に優しい女子だ。だが、なにも気にすることはない。きちんと某が捨てておいた。塵が塵箱に捨てる。当然のことだろう?お前の手を煩わせるまでもない。もう大丈夫だ。某がいる。某がを守る。は安心して、某の傍におればいい。何も考えずともよい。某が全てうまく運ぶ。、。もう大丈夫なのだ。そなたを一番わかってやれる某がいるのだ、もう何も、必要ないだろう?」
じわり、赤い水が広がる。
鋸からではなく、幸村自身から。
「真田・・・くん・・・」
「好きだ。。好きだ、好きだ。ずっとこうすることを待ち望んでいたのだ。ああ。。おれのものだ」
抱きすくめられ、鉄錆の匂いが鼻につく。
はくらくらと血の匂いに酔いながら、雨と幸村の腕に熱を奪われ悲鳴を上げる力さえ残されることはなかった。
その心臓の音とおなじ速さで
title by 星が水没