繋いだ掌が、熱い。
500年ぶりに触れた手は、相も変わらず華奢で優しい。
柔らかな肌の感触。
政宗は小さく、と名を呼んだ。
は、俯き加減に返事をして、それから照れたようにぎこちなく笑う。
心臓が軋むほどの歓喜。
痛いくらい涙腺を刺激する感情に自嘲が漏れた。
好きだ、と稚拙な告白を繰り返し、ゆっくりと丁寧にを捕らえる。
今度こそ離さないと誓い、政宗はそっとの唇に己を重ねた。

「ちゃんと、優しくする」

あの時告げた言葉を繰り返せば、目元を赤くしたは言葉なく頷く。
そんな姿が庇護欲を掻き立て、政宗は割れ物に触れるようにの頬に触れた。
暖かな熱と確かな存在。
自分とが、確かにここにいるという現実が胸を焼いた。

っ・・・」

たったそれだけで泣き出しそうになる。
それなりに人生を歩んだというのに、政宗はの事となると常に涙腺が緩くなった。
情けなくて視線を泳がせれば、は優しく笑って政宗の手に指先を絡めた。

「政宗さん、私ね、会いたかったんです。政宗さんにまた会えて、本当に嬉しいです」

がそうやってまた涙腺を刺激するものだから、政宗は耐えられず左目から涙を一滴流してしまう。

「相変わらず、お前には敵わない」

力なく笑い返せば、はわからないという風に小首をかしげた。

・・・俺も、会いたかった。ずっと、ずっと・・・」

の一瞬を、政宗は500年生きた。
辛くなかったと言えば嘘になる。たが、こうして会えることを信じていた。



ふわりと唇を奪えば、はゆっくりと瞼を落とした。
それが合図となり、政宗はすべらかな肌を撫で、首筋に口付け頼りない鎖骨に吸い付いた。
赤く色付く白い肌。
醜い政宗の独占欲は、の肌の上で美しく咲き誇る。
は一瞬震えたものの、大人しくそれを甘受して喉をひくつかせた。
白い喉が上下する。
政宗は思わずそれを凝視して、首をもたげる性欲を自覚した。
それでも、焦らぬように自制を効かせ、ひとつひとつ丁寧にの制服のボタンをはずしていく。
500年前の乱暴さはすっかり成りを潜め、今はただ慈しみたいと言う心地ばかりが前に出た。
都内の高校の味気ないカッターシャツの防壁をくぐれば、の胸を隠す可愛らしい下着が顔を出す。
薄青のレースがあしらわれた下着。包むように掌で触れれば、の体が羞恥に震えた。
真っ赤に染まる頬が愛しい。
まるで初な子供のように政宗の心臓もつられて跳ねる。

「外すぞ」
「は、い・・・」

左腕で体を支えて空いている右手でホックを外す。
するりと肩から滑った下着、露になる甘い肌。
匂いたつ色香に惑わされ、ふくよかな胸を口に含めばのか細い悲鳴が胸を刺した。

「っ、怖い、か?」

戸惑う内心を隠さずに聞けば、は涙目になりながら頭を左右に大きく降った。

「ちが、なんか、は、恥ずかしくてっ・・・」
「そうか、悪い」

この生を受けて、セックスはすでに体験済みだ。
それなのにこうも逸る気持ち。
何度か呼吸を繰り返し、自制心を取り戻した政宗は触るぞ、と断りを入れての胸を包んだ。
柔らかな肉の感触に血の巡りさえ汲み取ろうとする感覚。
全身でに溺れていく。
心地よい溺死に政宗は小さく微笑み、の首筋にキスを落とし柔らかな耳を甘く噛んだ。

「下、触るな」

無言の頷きにの髪がさらりと流れる。
洗髪料の甘い香り。導かれるままに指先を入り口に宛がえば、少し、濡れていた。

「ま、」
?」

制止かと思い名を呼べば、は真っ赤になって俯く。
どうした?と柔らかく促せば、涙に濡れたの瞳に政宗が収まる。

「緊張、しちゃって、なんだか、・・・」

丁寧に触れる政宗の腕は体感したことがなかった。
唐突に奪われた初めてや乱暴さを孕んだセックスはした。
だが、割れ物を触れるようにしてことに及んだのは初めてだった。
心が通いあっている。
だから嬉しい。
だから恥ずかしい。

「嫌か?」

嫌だと言えば、恐らく政宗は手を引くだろう。
それがありありと伝わる政宗の左目に愛しさがわく。
はゆっくり頭を振って政宗に身を預けた。

「嫌じゃ、ない」

そう伝えれば、肌越しに政宗が笑ったのが伝わってくる。
心地よい体温に、は現実を噛み締めた。

「政宗さん・・・」

続けてください、
の誘惑には、一切の不浄を感じなかった。
ただひたすら甘く、柔らかく、喜ばしい呼び掛けに答える政宗は深く微笑む。
椿色の唇に口付ければ、蜜の味がした気がした。

、好きだ」
「・・・私も、です」

入り口を撫でる政宗の指が、ゆっくりと肉を割り秘所に宛がわれて熱を引き出す。
その感覚に背を震わせたは、小さく息を吐いて緊張を逃した。
それに気づかないはずのない政宗は、ただただに合わせて緩やかな侵攻速度を保つ。
激しさと焦りもない。どこまでも優しく慈しむ政宗の指先にの感覚は霞がかったように支配されてしまう。
甘やかな愛撫に蕩ける体。気持ちいいと脳が伝達するせいで余計に思考が滲んでしまう。
熱くなる体に息が上がり、は必死に政宗にすがり付いた。

「政宗さんっ、政宗、さん・・・」
、気持ちいいか?」

低く芯に響く政宗の声音にの腰が痺れる。
入り口を行き来する政宗の指は、ゆっくりと本数を増やした。

「ふぁ、あ、あっ・・・」

内側が満たされる感覚にはぎゅっと目蓋を閉じる。
闇の中でさえははっきりと政宗の熱を感じ取った。
優しい指先が闇の中でも浮き彫りになる。

「まさ、むねっ・・・さ、ぁん」

は、こんな感覚は知らなかった。
数日前までは、友達と彼氏が欲しいねなんて笑って雑誌の特集を見て笑うただの女子高生だった。
漫画のヒロインの様に素敵な恋人をいつかつくるんだと思っていた。
ドラマのような派手な恋ではないだろうが、きっと、いつか誰かと恋をすると思っていた。
そして一瞬で過ぎ去った500年前の2年間。
のすべてに変革を与えた時間。
出会うはずのなかった人と出会い、過ごすはずのなかったその2年。
その2年間に、は人を、世を、すべてを憎み、そして愛した。
恋などという甘いものではなかった。
辛かった。そして報われた。
これが恋だとか愛だとかはわからない。
名前のない感情。
今のを形成したかけがえのない記憶、時間、目に見えないものたち。

っ・・・」

熱っぽい政宗の声音にの意識は引き上げられる。
政宗の熱に溶かされて形を無くしていた思考がゆっくり蘇る。
目蓋を開けば、苦しそうに歪んだ政宗の表情。
が赤面する。政宗はの耳を甘噛みして濡れた声で囁いた。

「挿れたい・・・」

つ、と内側を撫ぜる政宗の指先が淫靡にを頷かせる。
得たり賢しと唇で弧を描いた。
肌を啄むように食む政宗の唇の温度が心地よい。
仰け反る喉を鼻先でなぞり、政宗は簡単にを横たえさせた。

「痛かったら言えよ」

そうして蕩ける指を秘所から抜けば、溢れた愛液が指の間まで淫らに濡らしている。
深くなる政宗の笑みに、はどうしようもない位羞恥に身を焼かれた。

「政宗、さんっ・・・」
「あんま、呼ぶな」

少し赤くなった耳許が涙を誘う。
余裕のない政宗に、心臓が煩い。
ああ、想われている。
それだけで、満ちる。

ぬるり、熱の塊が入り口に宛がわれ、思わず吐いた息に合わせて政宗の体が侵攻を開始した。
内側を隙間なく埋める質量には堪らず涙を流す。
痛みと快感が混ざりあい、それが気持ち良い。

「政宗さんっ、政宗さんっ・・・!」

熱に浮かされ譫言のように政宗の名を繰り返す。
政宗は一つ一つ、、と名を呼んでは答えてくれた。
求め合う心地よさよ。
肌から溶けて、混ざり合う。

「全部、入ったぞ」
「はっ、ぁ、あつ・・・ん・・・」

腹を、撫でれば中に潜む政宗が疼いたような気がした。
じりりと肌を焼く政宗の視線に、は荒い呼吸のまま囁く。

「動いて、だいじょうぶっ、ですよ・・・」
「馬鹿野郎、無理するな」

と言う割には瞳の奥の感情が熱っぽく揺れている。
優しい人。
は首筋にしがみつき、もう一度同じ言葉を囁く。
甘く、甘く、意地悪く。
苦笑する政宗は、の言葉に緩く頷きその細い腰を柔く抱き止めた。

「・・・動くぞ」

断りを入れ、淫らに腰を揺らす。
内部を擦る熱に身を焼かれた。
爛れ、溶けて、何もわからなくなる。
溺れないように、自分を見失わないようには必死に政宗にしがみつく。

「ま、さ、むねっ、さ、ぁん・・・」
っ・・・!」

噛み殺す声が琴線を震わせる。
共有される快感に涙が滲んだ。
愛しい、愛しい、このひとが愛しい。
は涙ながらに喉を鳴らし、政宗はその涙を舌先で拭い飲み込んだ。

「好きだ」

溢れ出る飾り気のない言葉。
それは真っ直ぐ、の心臓を包み込んだ。
暖かい、熱。

「・・・た、し・・・もっ、」

荒波の中で吐息のような声が漏れる。
その声を聞き届けた政宗の動きに激しさが増した。
駆け上がる快感に息が詰まる。
乱れ髪に滴る汗、肌はとうに境界線を無くしていた。
あとはただ、絶頂を追うばかり。

「あっ、は、ぁ、ぁあ・・・!」
っ・・・もう・・・」
「私も、もっ、だ、めっ・・・!」

甘い悲鳴を飲み込むように政宗はに口付けた。
最奥に身を委ね欲望を吐露する。
快感の余韻走る背が震え、と政宗はきつく手を繋いだまま果てたのだった。


***


ゆるく、目を見開き隣に眠る顔のあどけなさに胸が安らぐ。
それから優しく、へその辺りを柔く撫でた。

「大丈夫、もう一度、生んであげるから。また、3人一緒だからね」

夢の続きは覚めても続く。
は、一人微笑み政宗の胸に擦り寄り優しい眠りに落ち着いた。






未完成こそ美しく尊い 


全てはまだ結末を迎えてはいけない


title by hazy