※ まるで駄目な奥州筆頭伊達政宗
マダオ政宗しかいません。
変態です。
嫌な予感しかしない人は急いでバックプリーズ!
「そいつは俺の女だ。俺のものに手ぇ出すたぁいい度胸じゃねぇか」
三日月を背負って現れた男は殺人犯も裸足で逃げ出すような底冷えする眼で私たちを見ていた。
私に覆い被さる男はどくがんりゅうっ!と短く悲鳴をあげて、私はその隙に男の鳩尾に思いっきり膝蹴りを入れる。
ぎぇ、と潰れた悲鳴が上がったが、腕を押さえる力が緩まず逃げ切れない。
汚い唾を浴びて気持ち悪くて目を瞑ったら、鈍い音と一緒にふっとのし掛かる男の重みが消えた。
「大丈夫か?」
三日月の男が刀を鞘の状態のまま殴り飛ばしたらしい。
ビールっ腹のごついおっさんを吹き飛ばすとは、すごい腕力だ。
すっと差し出された手を掴みあぐねると、三日月の男は「安心しろ。大丈夫だ」と低く囁いて笑いかけてくれた。
ああ、いい人だ。半泣きでそう思って手をとって、私はよろよろと立ち上がる。
暴漢に合うのなんかははじめてで、怖くて足が震えた。
未だに心臓がバクバクとうるさい。死ぬほど怖かったと全身が冷えていた。
「あんた、名は」
「・・・。た、助けてくれてありがとう」
「It is not it。か、いい名だな。それよりお前、本当に俺の女になれよ。きれいな顔してっから可愛がってやるぜ?」
下品な男の笑みに、思わず空いていた左手の拳で殴ってしまったのは仕方がないだろう。
例え恩人とはいえこれはひどい。かっとなってやった。反省はしていない。
しかしまぁ、これが私と政宗の出会いだったりする。
「、いやらしい顔してナニ考えてんだ」
「セリフに悪意を感じる」
「悪意だと?You can't mean that。俺はお前をこんなに愛してるのに。見てみろ、俺のこのBig magnumを!」
「きめぇぇぇぇぇ!伊達男きもい自重しろ!」
「Ha!独眼竜は伊達じゃねぇ!」
「いやぁぁ!!脱ぐな!来るな!消滅しろよぉぉおおお!」
接近してくる政宗に向かって渾身のラリアット。
見事喉にクリティカルヒットしたそれに、政宗は勢いを殺せず見事にひっくり返った。
ある日突然なんの因果か戦国時代、しかも戦場にタイムスリップしてしまった私はそこで敗軍の男に絡まれ襲われた所を政宗に助けられた。
身寄りも金もなにもない。自称未来人住所不定になってしまった私を政宗は保護してくれた上に手厚く介抱して城にまで上げてくれた。
本来なら感謝してもしきれないくらいの待遇の良さなんだが、いかんせん相手は変態だった。
なんとも複雑である。
「っはっはぁ!いいぜっ・・・たまんねぇ!もっと熱くさせてくれよ!」
「ひっ!復活早いなっ!」
職業が武将なせいか無駄に打たれ強い政宗はすぐさま立ち上がってまた襲いかかってくる。
だが米沢城に住んで一週間。
政宗の復活のタイミングを熟知していた私は今度は両手を拳に変え、ファイティングポーズをとって迎え撃った。
「行くぜ!My sweet!」
「一人で逝けっ!」
向かって来る政宗に向かって鍛えぬいた黄金の右ストレートをくりだす。だが
「甘いな!」
「なっ!?」
政宗はそれを読んだかのように、瞬時に体を左にずらした。
一週間、相手を観察していたのは私だけではなかったんだ!
伸びてくる政宗の腕を左で払い、急いで右手を引き下げるが政宗がそれを許さない。
六爪なんて前人未到の戦術をやってのける政宗の握力はマジはんぱないのだ。
一度掴まれれば簡単には逃げられない。
「離せっ!」
「お断りだぜ」
にたりと笑う笑顔は飢えた獣以上。捕まった右手を唇でなで、指の間をべろりと舐めた政宗の目はサディスティックに笑っていた。
思わず全身が総毛立ち、自由な左手で政宗の胸に掌底を決める。
呼吸のタイミングに合わせて打ち込んだせいで政宗の肺はその一撃で空になった。
痛みと同時に渇いた器官に政宗の喉がひゅうと鳴る。
その隙に政宗の腕を叩き払い自由になった腕を引き寄せそのまま上段蹴りをくりだした。
生憎着物なんて上品なものは肌に合わないので、ほとんど毎日制服と袴のローテーションである。
本日は制服デーのおかげで上段蹴りをこれこの通り。
「ぐっ!?」
思いっきり顎に踵をぶつければ脳震盪は免れないだろう。
流石に張った押すような真似は出来なかったが、ぐらりともつれた政宗の足元。そこに向かって身を屈め、素早く足払いをかければ当然バランスを崩した政宗は畳の上に転倒した。
ざまぁみろ!と声にせず笑えば、もろに強打した頭を抱えながら政宗が呻く。
「っ・・・ぅ、パンモロっ、」
「こ の お と こ は !」
恥ずかしさに真っ赤になってしまって寝転ぶ政宗に飛びかかる。
無論、エルボー・ドロップだ。
全体重+重力+怒りで衝撃は今までの比にはならない。肘に神経を集中させて政宗の上に落ちれば形容しがたい悲鳴が盛大に響いた。
ようやく落ちたか、と安心するものの瞬時に立つ鳥肌。お尻を撫でる手。
「ふっ・・・桃尻だな」
「〜〜〜ぶっ殺すっ!!」
嫁入り前の体によくも!!
痛みに半笑いの政宗に堪忍袋の緒が切れた。
その腹立たしい腕をとって足を絡めれば、なにを期待したのか政宗は頬を赤らめる。
それが余計にいらっときて、私はあえて満面の笑みを浮かべてやった。
「悪い腕にはお仕置きよ」
「ちょ、まさか」
「喰らえ!必殺腕ひしぎ十字固めぇぇええええ!!」
「ぎゃあああああ!wait!wait!!」
「調子こいてんじゃねーよ伊達男ぉおおお!!」
ギリギリと渾身の力で関節を締め上げれば政宗はすぐに自由な方の手でふくらはぎの辺りを何度も叩いた。
本当なら落ちるまで絞める気だったけど、政宗があんたりにも真剣にSorry!と叫ぶので私は渋々足をほどいてやることにした。
「・・・反省した?」
「ああ、肘落としは堪えた・・・」
憔悴する政宗の顔色は青くて若干やり過ぎてしまった間が否めない。
悪いのは政宗だが良心が痛む。
そうだ、政宗は恩人なんだからもっと優しくしてあげなきゃなぁ。例え変態でも、
「だが、最後の絞め技はなかなかよかったぜ?あの太股の感触が癖になるな」
「き、きもっ!!」
「な、なぁ、もういっかいっ・・・」
「やだよきもちわるい!こっちくんな!」
「はぁはぁ、嫌がる顔もかわいいぜHoney」
謎の手つきでにじり寄る政宗はどんな肉体構造してるんだ。
一般人なら軽く気絶するのに無駄に元気である。
にたにたと笑う笑みは冗談なのか本気なのか判断できなくて余計に怖い。
「もぉおお!政宗気持ち悪いよ!いい加減にして!」
「はぁはぁ、泣きそうな顔もたまんねぇな。思わず勃起しちまったぜ」
「死にさらせこの色情魔ぁぁぁ!!」
方膝立ちの政宗を土台にして飛びあがって蹴りをお見舞いする。
遠心力とか重力とかとにかく色んな力を込めて繰り出した足技の名はシャイニング・ウィザード。
プロレス界の決め技のひとつでもあるそれに、流石に戦国武将もグロッキーになった。
政宗の定まらない焦点を確認して、私は政宗!と優しく声をかけてあげる。
「いっぺん、死んでみる?」
勿論意識するのは能登ボイスだ。
満面の笑みを浮かべながら政宗の机に足をかけながら空中に飛んぶ。そのまま体に捻りを入れたまま政宗に向かって落ちればほら簡単。ムーンサルトプレスの出来上がり!
いくら武将であろうがグロッキー状態で避けられるはずもない。
無様に潰れた政宗は短い断末魔を残して行動不能に陥った。しばらく観察してみるが反応はない。ただの屍のようだ。ていうかようやく落ちたらしい。
「ふぅ、勝った!」
額の汗をぬぐい、変態の死骸を踏みつければどたばたと騒がしくなる廊下。
やばいと思った時にはもう遅い。
「なんの騒ぎですか!政宗様っ!!」
と政宗さんの部下の顔の怖い片倉さんが部屋に入ってきた。
「ま、政宗様・・・・・・」
「あ、あは、あはは」
渇いた笑みを張り付けて、なんとか笑って誤魔化せないかと試みてみる。
片倉さんは政宗さんのそばに座って、うつむき加減で、と私の名前を呼んだ。
地割れみたいな低くも破壊力のある声に、びくりと体を震わせ急いで政宗の上から足をどけた。
「か、片倉さんこれには深い理由が!」
「いや、なにも言うな・・・」
ゴゴゴゴゴとスタンドでも出てくるんじゃないかってくらいの効果音を背負って片倉さんは私の方を振り返る。
ひ!と殴られると思って頭を抱えた私なのだが、いつまでたっても拳骨は落ちてこない。
そろりと目を開けたら、すごい笑顔の片倉さんがいた。
「いつもすまねぇな、」
「あ、いえ」
「だがお前には感謝してる。お前が来て以来見てくれ。政宗様のこの晴れやかな顔を!」
「は、はぁ・・・(てええええ半笑いで落ちてる!きもい!きもすぎるよ奥州筆頭!!)」
「、これからも政宗様のこと、よろしく頼むぜ」
ぽん、と笑顔で肩を叩かれたら、嫌ですなんて言えないのが日本人。はぁ、と曖昧な相づちを打ちながら、私はどうしようもなく泣きたくなった。
だめだこいつら、はやくなんとかしないと!!!
多分ふたつで愛だった
title by ルナリア