※ ひどいあとづけです。読まなくても問題なし
政宗がすごく人非人。
政宗はかっこいい英雄だと信じている人は見てはいけません。
それでもいいならスクロール
は奥州の果てのその果ての、そのまた果ての村のまた果てに住んでいた。
流れ者の異人の女と、家から逃げた身分ある男。
忌み嫌われるでもないが隠れるようにして暮らしていたその一家。
政宗がを見つけたのは本当に偶然であった。
冬に向けて領地を視察に出向いた政宗。
馬を休めていた最中に、政宗はと出会った。
「青い!」
「ah?」
「お侍さんだ!」
笑うの眩しいこと。
日の光を吸い込んで輝く銀の髪は、良質の鋼にも似て目を奪う。
甘い輪郭に朱が差した頬。瞳は海と空を混ぜた美しい碧玉であった。
政宗は瞬間、この娘が欲しいと思った。
思い立った後は早い。
人と関わりがなかったを言葉で手懐け、案内された家屋での両親に相対する。
「娘を寄越せ。無論ただとは言わねぇ。言い値で買おう」
これでは武士と言うよりも人買いであった。
だが政宗は気にせず返答を迫る。
向けられる刃物のような視線に怯える両親。
先に口を開いたのは母親だった。
「はものじゃありません。あの子は人間。牛や羊じゃないのです」
異民らしい不思議な声の調子に片眉を上げれば、続く父親の言葉。
「武士も農民も、同じ命なのです。平等な存在です。寄越せや何やとは如何なものでしょう」
政宗を国主であると知りながらのその言葉。不敬罪切り捨て御免も致し方なし。
不遜とも取れるその物言いに、政宗は鬱蒼と唇を吊り上げた。
「平等?あぁ、切支丹か。あんたら」
海の向こうの宗教は、言葉とともに聞き及んでいた。
すべてが平等を謳うそれは、この大地に根付く政とは些か馬が合わないだろう。
この国は民それぞれの役割があって成り立つものである。
それがなくなってしまえば、この国は混乱するだろう。
それに政宗自身、ただの人間を神聖化したそれは肌には合わない。
人間はどこまでも人間でしかない。
聖人も坊主も宗教家も、一皮むけば皆欲にまみれた人間だ。
政宗だって、人間だ。
「悪いな。俺、嫌いなんだよ」
切支丹ってやつは。
そのまま刀を抜き払えば、後はご想像の通り。赤い部屋が出来上がるのみだ。
そうして予定調和のように、外で遊んでいたがやって来る。この赤い部屋に。血と臓物と、噎せ返るような死の臭いが満ちる部屋に―――。
懐かしい夢から覚めた政宗は、腕のなかで眠るの髪を優しく撫でた。
両親の死を見て気絶した。目覚めた頃には心を病み、言語障害や幼児退行などが目立った。
年の頃には合わない幼さは、周囲の目を引くには十分であった。
犯行は野盗の仕業と片付けられ、寂れた村で余分な子供を育てる蓄えなどない。
異国の血を引くは、物珍しさから遊郭やどこかに売られそうになるのを政宗が引き取ったのだ。
身寄りのない娘に手を差しのべる国主の姿は、領民たちの目にはさも神々しく映ったことだろう。
それこそまさしく、病めるものを癒す主イエスの様に。
そこまで考え政宗はくつくつと喉を鳴らした。
「ん、まさむね・・・」
ふるりと寒さに身を震わせるを抱き寄せ、脱ぎ捨てた着物を引き寄せて暖を取る。
滑らかな肢体が隠されるのは勿体ないが、風邪を引かすには忍びない。
熱を与えるように触れあえば、は猫の子のように政宗の胸に擦りよった。
は政宗が親殺しの犯人とは知らない。
あの地獄絵図を産み出した張本人に抱かれ、養われ、好きにされるとはなんと不憫だろう。
だが構わないと政宗は思う。
は一生この真実を知ることはないだろうし、は政宗以外の頼れるものは居ない。
第一、この城内でを知るのは小十郎と他数名の女中しかいない。
政宗の息の掛かっていない者は居ないのだからが城の外へ向かう手立てはない。
真実を知ることなど、永遠にないだろう。
は一生、政宗の可愛い篭の鳥だ。
美しい銀色の小鳥。
政宗の為だけに囀ずる小さな小鳥。
考えれば考えるほど愛しさが増す。
政宗は甘くの美しい髪に唇を触れさせながら、再び柔らかな眠りに身を投じた。
麗しく爛れる
月の絶叫
月の絶叫
title by 不在証明