季節は冬、場所は北、時は緩やかに一年の終わりを迎えようとしていた。
深々と降る雪は、数多の穢れと血をひた隠すように止むことを知らず、辺り一面は荘厳なまでの白に飲み込むようにして季節を残酷なまでに彩っている。
忍ぶように冷えた廊下を音もなく進む中、すっかり色を無くした庭に目をやった。
積もり具合は幾ばくか。
今年の雪は随分遅かった。
季節はまるで遅れを取り戻そうとせんばかりに流れ行く。
はぁ、と吐いた吐息は白く、主が好む煙管の紫煙を思い出させた。

「片倉様?そこにおわしますか?」

少し先の部屋から声がかかる。
ああ、と短く相づちを打てば、招くように襖が開かれた。

「こんな夜分に如何なさいました?お風邪を召しますよ。よろしければこちらへ」
「すまねぇな」

俺は見えぬと知りながら小さく会釈し、彼女の部屋へと邪魔をした。
部屋といっても私室ではない。
外宮のものとは作りの違う、包ましやかな神台のある部屋だった。
自分は彼女とは宗派が違うので、細部までは汲み取ることが出来ない。
ただ、ここが彼女が神に祈る場であることは十分理解していた。

「寒さで目が覚めてしまいましたか?申し訳ありません、火鉢にも限りがありまして」
「いや、気にしなくていい」

この神社(寺子屋としとも機能しているが)は随分と実入りが少ない。
信心深い彼女が多くのお布施を受けないことと、身よりのない子供を次々と拾うことが起因していた。
彼女の名はという。
ひとりこの神社を切り盛りする巫女でもあり尼でもある女だ。
毎年彼女に冬の蓄えの少なさを持ち出し、彼女の子供たちを引き受けるのは俺の父の仕事であり、彼女の歳末の仕事を手伝うのが俺の仕事だった。
いつもは子供たちの声が響くお堂も、今は俺と彼女とほんの二三人の小坊主しか残っていない。
冬の静けさも相まって、あたりは死んだように静まり返っていた。

「片倉様、今年もお手伝い頂いて申し訳ありません」
「困った時はお互い様だろう。それに親父も孫が出来たみたいだと毎年この季節を待ってるんでな。そう気遣う必要はないぜ?」

父親のふやけた顔を思い出してしまえば、俺は思わず吹き出してしまう。
それを見たもまた、柔らかく肩を揺らして笑った。

「でも毎年助かっております。本当に」

俗世の匂いを感じさせないの笑みは子供のように穢れなく、天女の如く美しい。
短くはない付き合いの中で、だんだんと神格を得ているようなの姿は少し遠く感じた。

「片倉様?」
「ああ、いや。なんでもねぇ」
「ふふ。お寒いからでしょう。もう少し火鉢に寄ってください」
「悪いな」

神職でありながら、城仕えでもある俺にはのような清廉さは持ち得なかった。
人を斬るし畜生も殺す。血を好み煩悩にだって迷わされる。
しかしそれが生きることだと考えていた。
神なんていない。
心中とはいえそう憚る、不信心な男なのだと自嘲した。

「今宵は随分冷えます。なにか、暖かいものをお持ちしましょう」
「いや、別に構わねぇ」
「私が構いますの。折角お手伝いにいらして頂いた方にお風邪でも引かれたら困りますもの」

ふふ、と笑うの髪が流れた。
どこかの姫をも遥かに凌ぐ、黒くたゆたう髪は艶やいて、香に紛れて漂う香りはの首筋から甘やかに香る。

「今お茶の用意を」

「はい?」
「茶はいい。代わりに」

お前で暖をとらせろ。
立ち上がろうとしたの細い手首を捕らえ、ぐいと力を込めればか弱い女は簡単に態勢を崩す。
恐らく訳もわからぬ間に天地は覆り、天井を阻む俺を不可解に思っただろう。

「か、かた、片倉、様?」
「悪いな。いい加減俺も辛抱は厭きた」

え?と聞こえたのはの柔らかな声だった。
早くに神仏に帰依したとは言えまさかなにも知らないわけではないだろう。
試すように甘く香る首筋に顔を埋めれば、驚いたようには俺の名を呼んだ。

「なにを!?」

まさか本当になにも知らないのだろうか。
世間で言えばは行遅れとも呼ばれる歳だ。
神仏に仕えていなければずっと昔に嫁いでいるだろう。
今まで初物だと理解はしていたが、まさかなにも知らないとなると。
思わずごくりと生唾を飲み下した。
美しく、なにも知らない少女のような女。それを今から犯すとなると。
言い様のない嗜虐的な感情が胸の内に広がった。

「か、片倉様。童子ではないなですから人で寒さを凌ごうなんて!後でお部屋に火鉢をお運びしますから退いてくださいませ!」
「お前、それ本気で言ってるのか?」

不思議そうに目を丸くするの姿は酷く幼い。
蒲魚ぶっているわけではなかろう。
いつも大人び、常世とは違う雰囲気を纏う女が、いまはこんなにも生娘然としている。
堪らずくつくつと笑ってやれば、は腹を立てたように眉を吊り上げた。

「本気以外の何とお捉えですか?さぁ早く退いてください」
「断る」
「片倉様!」

こちらを叱りつけよう諌めるを笑いながら、匂いたつその細い首筋に舌を這わせる。
驚きに声を無くしたの肌が戦慄いた。

「今から俺が何をするかわかる?」
「なにを」
「お前の初物頂く」

が、息を飲むのが分かった。
硬くなる身や表情。
は必死に俺の肩を押し、どいてください!と鋭く叫んだ。
どうやらなにも知らないわけではないらしく、今まで気づかなかっただけか。
幾らか落胆はあったものの、抵抗される分には食指をそそった。
自分もなかなかいい性格をしているものだ。

「俺は何年も我慢した。もう十分だろう」
「片倉様!」
「毎年毎年、僅かばかりの時間で俺はお前に惹かれていった。お前が欲しい。嫌とは言わせねぇ」
「片倉さ、んっ・・・!」

口煩く反抗しようとする唇に蓋をしてやれば、が驚いたように目を見開いた。
だが、抵抗の術など知らないのだ。
開かれたままの唇の甘さに誘われるままに舌を入り込ませる。
熱い舌が絡まれば、体の中心に集まる熱を自覚した。

「か、たっ・・・ん、ふ・・・」

甘い。思考をも溶かす甘美さ。
吐息も、溢れた唾液も。まるで甘露だ。すべてが官能的に部屋を満たす。
その音を熱をと貪欲に責め立てれば、とうとうの目尻に涙が浮かんだ。

「っ!!」

途端、舌先に走る痛み。
唇を離せば、身を起こしたが袖口で口許を覆いながらこちらを睨み付けていた。
舌を噛まれたか。
更に涙目でこちらを睨む可愛らしい抵抗に、思わず口角は悪どくつり上がった。

「痛ぇな」
「なにをっ・・・不埒な!」

真っ赤になって吠えたてる
しかしそんな姿、まるで爪を立てる仔猫程度にも及ばない。
気丈に振る舞いながら、恐れに震えるの細い体。
ちらりちらりと揺れる燈籠の灯りが、の影をも揺らして踊った。ああ、恐れられてる。
だがそんなことはどうでもいい。
常日頃は神仏と養い子たち以外を心に住まわせぬ凛とした女。
そんなの心が一心に自分に向けられている。
たとえそれが恐怖や失望の色混じる鋭い視線であっても、それにさえ熱を覚えた。
神職の息子でありながら、身の内にたぎる浅ましい想いには笑うしかなかい。
くつりとこぼれた笑みに、がまた身を硬くする。
怯えるの要望に答えるように近づけば、は身を翻して逃げようした。
だがここで大人しく獲物を逃す男はない。
俺は逃げるの足首を捉え、転ぶの上に覆い被さった。

「片倉様!」
「大人しくしてりゃあいいものが味わえるぜ?」
「嫌!おやめください!おやめください!」

嫌がるの頬に口づけ。
きちりと着込まれた着物をまさぐり素肌を探す。
邪魔な着物を剥いでやり、触れたの肌の柔らかさ。
文字通り、傷ひとつない珠の肌に心が踊った。


「嫌ですっ、片倉様、どうか、どうかお許しを」

震えるの形よい胸を包み込み指先で遊んでやる。
はじめて知る衝撃にはきつく目を閉ざした。
一瞬弱まる抵抗。
俺は遠慮なくもう片手を下腹部へと滑らせた。
繁る陰毛を掻き分け肉の割れ目に指を這わせれば、一際大きく震えた。やめて!と高く上がる悲鳴は胸から離した手で覆った。

「静かにしないと小坊主たちが起きるぞ?」
「っ!」
「いい子だ」

大人しくなったの耳を、まるで陰部にするように舌先で舐る。
羞恥に赤くなるの耳は熱く、血の流れが堪らない感触に変わった。
熱に匂いが高まるの肌。
我慢ならずに好きに舌を這わせてどこもかしこも味わってやる。
知らぬ感覚にうち震えるは、畳目に爪を立てて何度も頭を振っては嫌がった。

「お願いします。やめて、片倉様。お願い、後生ですっ・・・」

小さく零れた声は酷くか細く震えていた。
目尻から降る雨は美しく、それさえ官能に火をつける。
秘所に這わした指先で、肉を割り膣に向かって指を進めた。
悲鳴を飲み込んだの声。
涙に濡れて鼻にかかった声は俺の熱を刺激してやまない。

「片倉様!いや、いや、お願いします!どうか、どうかお許しを、後生です、どうか、片倉様・・・!」

むずがるの懇願を無視し、人差し指をゆっくりと膣へと挿入すれば、の細く短い悲鳴が耳をつんざした。
窮屈なほど狭い膣内は紛れもない処女のそれ。
興奮に火照る自身が強く疼きを自覚した。

、あぁ・・・
「やめて・・・片倉、様・・・後生ですから、どうか、御神前です・・・お許しを」

の涙と一緒に溢れた声に、俺は久しぶりに神仏の存在を視界にいれた。
慎ましくも神聖さ滲むの聖域。
笑ってしまう。
今ここに救いの腕さえ差し出さない鉄の塊をは神と呼ぶのだ。

「神に見られて興奮するのか?濡れてるぜ?」
「違います!やめて・・・違うっ・・・」
「処女にしてはいい感度だ」

中指の爪先での陰核を刺激すれば、震えた嬌声と共に膣内が一層締まりを増した。
しっかりと感じていることに俺は安堵を覚える。
信心深い彼女は神域に届く気高い魂を持ちながら、その身はやはりまだ人間なのだ。
柔らかな肉壁から溢れる膣液に、指を絡めながら中指まで挿入すればは信じられないといった風体で激しく左右に頭を降るのだった。

「そう気を病むことはねぇ。どんな尼や坊主も百八の煩悩には勝てねぇ、結局はただの人間てことだろう」
「いやです・・・いや、こんな・・・かみさまっ・・・」

畳目に額を擦り付けながら、は必死に心を沈めようと勤めるばかり。
それが気に食わず、二本の指を遊ばせながら三本目の指も挿入してやる。
いよいよは耐え難いように甘い悲鳴を溢れさせた。
必死に堪えていた嬌声も、これならば神仏にも良く聞こえただろう。
俺は思うままに指を抜き差しを繰り返し、滑るほどに溢れるの膣液は太股を伝って着物を汚した。
もう少し解してやりたい気もしたが、愛しい女の痴態を前にいつまでも自制が効く男はそう多くまい。
の中でしっかり暖められた指を引き抜けば、力の抜けた体は艶かしく撓垂れてしまった。
熱っぽい吐息と震える肩。
白く透ける肌は火照り甘やかな薄紅色に染まる背。
荒い呼吸には肩が揺れ、流れた黒髪から覗く頬の丸みには涙と快感の朱が並ぶ。
これ以上の我慢など、する気はない。
袴の紐を紐解き、熱に硬くなる自身を取り出す。
もうすっかり終わった気でいるの腰を掴めば、驚いたようにこちらを振り返るの大きな目と視線が合わさった。
彼女の位置からは、何をされるかなど見えてないのだろう。
しかしそれも好都合だ。今からまた暴れられても困る。
俺はが脱力しているのをいいことに、勢いは殺しつつも殆ど容赦なく彼女の狭い膣内に杭を打った。

「っ―――!?」

見開かれたの瞳からまた大粒の涙が流れ落ちる。
言葉には表しがたい破瓜の感触。
肉を割るその感触には背筋が震えた。
それは久しい穢れない女を征服する感覚。
満ち足りた想いに吐いた息は、の危うげな呼吸と重なった。

・・・平気、か?」
「い、た・・片・・・くらさ・・・痛・・・」

それもそうだろう。
前戯も不十分のまま一気に挿れたのだ。人よりも猛々しいと自負しているこれだ。痛みが少ないはずがない。
致してしまった事に後悔はないが、痛みに震えるの姿は哀れで良心が痛んだ。

「すまん・・・つい、我慢が利かなくてな」
「おねが・・・ぬい、て・・・」

きつく顰められた眉と痛切な願い。だからといって聞けるものではない。
せめてもの侘びにと俺はの甘い唇を吸いながら、空いていた手で再び陰核に淫らな刺激を与えてやった。

「悪いが、それは聞いてやれねぇな」
「っ!?か、た・・・ちがっ・・・やっ・・・!」

嫌だというものの、下のほうがそれでいいとばかりにまた濡れる。
中も俺の淫水と破瓜の血が潤滑油となってなかなかに滑りがいい。
どうしよもう無い程に俺も男だ。一瞬前まであった申し訳ないと思う気持ちはすでに霧散している。
今はただ。欲望のままにを犯したいと思う気持ちばかりが募った。

「・・・悪い、動くぞ」
「え、ぁ!?・・・か、た・・・っあ!・・・んぅ・・・!」

柔らかくすべらかな肌に掌を這わし、滑らかな曲線を描く腰を捕らえて杭を打つ。
暖かな膣内はふたり分の欲望に濡れ、時折淫猥な水音を立てては歓喜の歌を歌うようだった。ぐちゃり、と響いた水音は、空気を孕んで大きく響く。
俺は小さく、厭らしいな、と囁けば、は何も言えずに不明瞭な嬌声で俺の耳までも潤わせた。
痛みと快感に神経を磨り減らすは、譫言のように俺の名を呼ぶ。
それが愛しく、ますます腰の動きを加速させてしまうのは気付いていないのだろう。
俺も答えるように何度もの名を呼んで、その白く広がる背中に赤い花を散らした。

・・・」
「かた、くらさぁ・・・ぁん・・・ふ、ぁ、あ!」

鼻に掛かった甘い声。無自覚に男を誘う肌はなんとも罪深い。
肌に浮かぶ珠の汗も、甘露のように甘く喉を滑る。
正体なさげに潤むの瞳は、一体なにを見ているのだろう。
神でないことは確かであるなら、いつまでも畳を収めさせるの勿体無い。
少々乱暴になりながらも、の軽い体を繋がったまま反転させればすれる接合部にの甘い嬌声がまた上がった。

「気持ちいいか?」
「あ・・・ぁ・・かた・・くらさ、まっ」

熱に浮かされ滲むの瞳。
だらしなくあけ開かれた唇を奪い舌を絡めれば、熱い呼吸が共有された。発熱する舌は力なく、反応を返す余裕も無いようだった。
艶かしいの煽情的な姿にまた熱が膨張する。
その細腰を掻き抱きながら自身の肉杭を打ち込めば、震える体は悦とばかりにまた濡れた。
俺は狂ったように何度もの内部を行き来する。脳を溶かす官能。絶頂は近かった。

「かたくらさまっ・・・かた、くらさ、ま、んあ、ぁあ!」
・・・イクぞっ・・・」

乱れた呼吸が入り混じる。
絶頂を追いかけた先の果てにある開放に、全身がひきつく様に戦慄いた。
抑えることなど出来ない吐精を、の最奥に放つ。血と同等かそれ以上の熱に、の腰が浮き立った。
相手を気遣う余裕も無く、俺は絶頂の余韻に浸りながらの胸に寄りかかる。
節操無く打ち付ける心音の巡り。荒い肺の働きと心地よい汗の匂い。
真冬の情事であるのに、どちらも寒さなど一切感じなかった。

「かた、くら・・・さま・・・」

放たれた熱に身を震わせながら、はぱたりとそこで意識を失った。
俺は乱れた息を正しながら、しばらくしてからの中から自身を引き抜く。
その瞬間、彼女の股から溢れた自身の精と、交じり合うの血の色を見つけてまたも欲情するその浅ましさには、いくらか溜息を吐かざる得なかった。


***


「神罰が下りますよ」

冷えた布団で申し訳なかったが、客間に敷かれた宛がわれた寝所にを寝かし、身を清めてやり、火鉢を運び目覚めを待った彼女の開口一番はそれだった。

「随分、穏やかじゃないな」
「穏やかで堪りますか!あんなっ・・・!」

口ごもり、顔を背けたの表情は伺えない。声音は酷く腹を立てているようだった。
人間らしい彼女の一面は、酷く愛おしい。あまり叱られ罰せられる気分にもならなかった。
恋は盲目というか、役得だ。

「この山は、他の山と違い随分深く、雪は多く蓄えは少ない」
「なんだ?急に」
「奥州の長い冬の間、ここは人目につかず、雪に閉ざされる場所になります。きっと神罰が下ったんです。片倉様、あなたは春までここを出られません」

の視線の先は、いつの間にやら轟々と雪が吹雪く。
嵐の中の豪雨のように、冬の痛みを募らせる豪雪は風を切る音とともに心許ない木々を揺らして暴れていた。
建物全体が恐怖に震えるようにきぃきぃと悲鳴を上げる。
は恐らく、もしもここで自分が死んだとしても、それもまた神罰だというのだろう。そう思うとどうしようもなく笑えた。

「なにが可笑しいんですか!」
「いや、神罰というより、これでは天の恵みだな」
「はぁ?」

いぶかしむの表情は棘々しい。
だがそれでいい。ここ数年、作り物めいていた彼女が生気を吹き返す、怒り笑い泣き、人間として蘇っている。

「春までずっと一緒ってことは、春までお前を抱けるということだ」
「なんてことっ!!」

怒りに朱を刺すの頬。情事の余韻が残る濡れた瞳と相まって、どこか弱々しくいじらしい。俺は笑ったままを抱き寄せ、嫌がる彼女を腕の中に捕らえこんだ。

「春までに、お前を虜にしてみせるさ」
「な、な、な」
「神仏なんて忘れさせてやる。だから、俺のものになれよ」

答えを聞かずに唇を塞いでやった。
羞恥に火照ったのだろうの唇が、冬の雪を溶かすように熱かった。






依存してみるのも


悪くない


title by 迷い庭火