少し肌寒い雨風が庭の木や葉を打つ。
初めは不機嫌に呻いていた五郎八も、母乳ですっかり腹を満たしてしまえば煙たがっていた雨音を子守唄に変えて今はすやすやと眠っている。
はとん、とん、と心臓を打つ鼓動より殊更ゆっくり優しく五郎八の背を撫でていた。

「五郎八。雨が上がったらお庭にいこうね。紫陽花が綺麗に咲いてるし、カタツムリもいるかも。雨は好き?ママはちょっと苦手かな。だって濡れちゃうでしょ?あと服が乾かないから」

季節は梅雨。
止まない雨の日が続き、政宗や小十郎は近くの村の水害防止に駆け回っているので城には居ない。少し、寂しい気がした。
だがそうは言っても相手はお殿様。ふたりの子供といったのだから、ずっと傍に居て欲しいなんてことは言えやしない。
故にはその感情には構いもせず、静かに五郎八に語りかけた。
まだ目もあまり開かない五郎八は一日中寝て起きてミルクを飲んでまた寝て。の繰り返しだ。初めての子育てであるはなんでも稲に聞いてみたが、生まれたての子供はみんなこんなものらしい。

「五郎八は良く寝るね。寝る子は育つんだよ。だから、五郎八も直ぐに大きくなるよ。強い子になるわ。ママがそれまで守ってあげるからね」

寝息を立てる五郎八の薄い髪を撫で、額に唇を落としてから柔らかい布団の上に五郎八を寝かせた。
風邪を引かない様に布団はしっかり首までかけた。
さて、生まれたての子供とは特に手もかからない。手持ち無沙汰になってしまったは、棚の奥からいくつもの布地を取り出した。
琴は音が煩い。華道は鋏が危ない。茶道は湯が危ない。残されたものは少ない。そんななかが選んだのは裁縫だった。
色とりどりの布地と糸。
まだ服は作れないがよだれ掛けや足袋や手袋程度ならばつくれる。気が早いかもしれないが遅いよりかはましだ。
以前稲が教えてくれた通り、型に会わせて布を切り、は細い鼻唄混じりに針に糸を通した。

しかし数時間もすれば小さな足袋は簡単に仕上がってしまう。おまけに刺繍を入れてみた。その間に五郎八は一度もぐずったりはしない。驚く程おとなしい子供だ。やはり生まれてすぐだからなのだろうかとは小首を傾げた。

「五郎八は良い子ね。たくさん眠って大きくなってね?」

ふくよかな頬をつつけば、五郎八はふわ、と小さな欠伸をもらす。
親の贔屓目かもしれないが、やはりたまらなく可愛い。
満足げに頷いたは、出来上がった足袋を置いて新しい布地に手を伸ばした。
いつかぬいぐるみを作ろう。
この時代では犬や猫くらいしか見れないが、は、もっとたくさんの動物を知っている。
五郎八にはたくさんのものを知って欲しい。狭い世界で満足して欲しくない。
世界は広く、どこまでも続いているのだと、知って欲しかった。
はそう願いを込めて、よだれ掛けの端に水色の糸で象の刺繍を縫い始めるのだった。









君の雨傘に想うこと