女中達に手ずから身を清めて貰ったは、まだ起きあがれはしないものの、上体を起こす程度なら難はなかった。
産湯を済ませ、上等な白い布地に包まれた五郎八はまだ少し顔が赤くそれがよく目立っている。
部屋には喜多とふきの他に成実、綱元、小十郎。ほか重鎮数名が座っていた。

「おめぇら!こいつが俺とのややだ。名前は五郎八。元気な男だぜ」

政宗の言葉に辺りから喝采が上がる。どうやら部屋の外の廊下には兵卒や女中たちがいるらしかった。

「うわー!ちゃんおめでとー!」
様、政宗様、おめでとうございます」

右から左からと贈られる賛辞まそこそこに、は柔らかく体を揺らして五郎八の小さな手のひらを握って遊んでいた。
人肌よりも随分高い熱が心地よい。健やかな寝顔には微笑みが絶えなかった。

「―――只今ご紹介いただきました、稲と申します。様、どうぞよろしくお願いします」

す、と目の前で三つ指ついて頭を下げる稲と名乗った女に目を向ける。正直何一つと話を聞いて居なかったは大きく首をかしげる。
そんなに、稲は顔を上げた。丁度の母親と同じ程の年の女性だ。薄い皺が刻まれた頬は優しさと厳しさが同居して見える。

「ではこちらに」
「え?」

差し出された両腕に困惑すれば、稲は構わずに五郎八を抱き抱えようとした。

「や!?なんですか?やだ!離して!」
様?」

奪われそうになる五郎八を胸元で抱きしめる。驚いた稲は当惑しつつも五郎八から腕を離さない。
ますます強く五郎八を抱けば、身動ぎした五郎八はその腕の狭さに不機嫌そうな泣き声を上げ始めた。

!稲は五郎八の乳母だ。大丈夫だ」
「いや!五郎八は私の子供よ!私が生んだ私の子供です!私が育てるの!私の子供です!」
様、そう仰らず」

激しくなる稲との攻防と五郎八の泣き声。どうしたものかと慌てふためく周囲のなかで、政宗だけがを宥めようと背を撫でていた。

「私の子供だもの。私が育てるの。私たちの時代では親が子供を育てるの。それが絶対だし当たり前だもん。私が育てるの。私の五郎八よ。私の赤ちゃんだもの」
の時代は乳母はいないのか?」
「父親と母親が子供を育てるの。そんなのいない」

稲を制した政宗は、出来るだけ穏やかにに問いかける。泣きながら激しい感情を抑えるはきつく瞼を閉じていて、流れ落ちた涙が五郎八の丸い頬に伝って落ちる。声音を落とせば、五郎八はゆっくりと泣き止み始めた。

「Ok, なら二人で育てよう。俺とお前のややだ。二人の子供だ」

鼻をすするは無言のまま頷いた。非難の声を上げようとする重鎮達だったが、五郎八を抱えて震えるを見てしまえば皆揃って閉口せざる得ない。稲もまた渋々といった風体であったが、大人しくと五郎八から身を引いた。

「私が育てる・・・だって私が産んだんだもん」
「わかってる。五郎八はの子だ。そして俺の子でもある。ふたりで育てよう。ふたりのややだ」

落ち着かせるように優しくの肩を撫でる政宗。
その穏やかな気遣いには何度も首を縦に振った。
ふたりのこどもなのだ。
どちらかひとりではいけない。
は政宗の胸に背を預け、その心音を聞く。
五郎八と、と、政宗の心臓が重なる。

家族なのだ。

はひとり、心中でそう囁いていた。









それはまるで祈るかのように

細く、長く