自室に訪れた医師たちに怪我はどうかと問われたが、はなんの怪我もしていない。それに自分より重症がいる。は初老の医師に政宗の容体を聞いてみたが、一通りの治療は終わり命に別状はないらしかった。 「愛姫様、それほどご心配でしたら政宗様の部屋まで御一緒されますか?」 「え!?」 医師の思わぬ発言はの答えを聞くまでもなくぐいぐいと腕を引く。あまりの強引さにこの医師も伊達軍らしいと納得するしかなかった。 開かれた襖の先には横たわる政宗と正座をする小十郎と成実。 と医師に気付いた二人はそっと脇に避け二人に場所を譲った。 それに会釈し医師は触診を始める。未来のように聴診器もないが医師の腕は迷いない。暫くすると「脈拍正常、安定されてますね」と二人を安心させた。 「目を覚まされましたらこちらの薬を。こちらが痛み止、こちらは化膿止め、こちらは軟膏ですので外傷に塗って差し上げてください」 「先生、いつもすまねぇ」 「いやぁ政宗様は相変わらず治療の遣り甲斐がありますな」 ほっこり笑う医師の隣では食い入るように政宗の寝顔を見つめていた。それに気付いた成実が小十郎と医師を部屋から連れ出すために席を立つ。渋る小十郎であったが、はいま武器ひとつ持っていない。天井には黒脛巾も控えているので大丈夫だろう。 ふたりが瞳で合図を交わす間に医師は気を利かせてさっさと部屋を出ていっている。それに続く小十郎と成実。三人見送った後、はもう一度政宗の寝顔を見るのだった。 呼吸は安定しているし、多少まだ頬に血の気はないが痛みはなさそうである。身を乗り出し顔を覗き込んでもまだ起きない。夢も見ないくらい深く眠っているのだろう。 「死んだり、しないよね」 あんなに血が出た。自分の簡単に消える手首の傷を撫でてみるが、然したる痛みはない。 背中の傷は武士の恥という。それでも政宗は、と成実を身を挺して守った。降り降る岩石の雨をその爪で薙ぎ払い壁となった。 「ねぇ・・・あの時、どうして庇ったの」 大切な愛姫の変わりだから? 成実がいたから? 返事はあるはずがない。 それでもは構わず問いかけた。 「どうして私を守ってくれたの?私が愛姫様に似てるから?」 自分は必要ない。ただの人形なのに? 「答えてよ」 健やかな寝顔に迫ってみる。 だがやはり目覚める気配は皆無であった。 「ねぇ、どうしてあの時・・・名前を呼んだりしたのっ・・・?」 、と。 喉を裂きそうな呼び声が、の鼓膜を震わせた。 迫り来る隕石から護るように伸ばされた腕が愛姫様のものならば、どうしてと呼んだのか。 「ねぇ、答えてよっ・・・」 どうして私を庇ったの? 私がめごに似てるから? 私がめごの身代りだから? それならどうして 「どうして“”って呼んだの?」 返らない回答に項垂れたまま、は政宗の枕元を濡らすのであった。 |