閃光が瞬き瞼を刺す。
脳裏で爆ぜる光と闇が、を現実から連れ出そうと腕を伸ばした。

「梵っ!」

だが切迫した声には閉じていた瞼を震わせる。
舞い上がる土煙に咳を繰り返せば、すぐそこに気配がひとつ存在した。

「っ怪我は、ないか?」
「な・・・な、ん・・・で」

膝を付き、肩で荒く息をする。
誉れ高き竜の爪が憐れな姿で地に突き立てられていた。滴る水音。北育ち特有の白い肌が、微かに青ざめ肌と赤で奇妙な色彩を作り出す。

「無事だな」

いつものようにニヒルに口角を吊り上げ、子猫を見るように目を細めた。

「政宗様!」
「政宗殿!」

二つの声が遠くで響く。は競り上がってくる恐怖に耐えながら、政宗を見た。

「ち、血、が」

思わず声も震えて、体も震えて、どうすればいいか分からない。
一瞬でも気を抜けば悲鳴が溢れそうで、は震える両手で口元を覆った。

「気にすんな。大事でもねぇ」

なんともない風にいい放つ政宗だが、すぐに成実が駆け寄り肩を貸す。短い英語の悪態が聞こえた後、小十郎も政宗の傍に到着した。

「政宗様!なんという無茶をっ!」
「Hey、小十郎。こんな時まで小言かよ?」
「政宗様!」
「ままま政宗殿!も、申し訳ござりませぬ!某があのような技を仕掛けたせいで奥方殿に危害が」
「Shut up.拉致る算段だったくせに白々しいぜ、真田幸村」
「某は!」

騒ぎ立てる幸村をどうどうといなし、佐助がピュウ、と甲高い口笛を吹いた。直ぐ様巨大な黒鳥が飛来して、そのまま勢いを殺さず幸村に掴みかかり跳躍すれば、すぐに地面に残されたのは影のみになる。

「佐助ぇ!離さぬか!」
「いやいやここは喧嘩両成敗ってことで、許してくれよー右目の旦那!」
「ふざけんじゃねぇ猿飛!この落とし前は付けてもらうぞ!」
「こら忍!!梵の怪我に敷地の破損だったら両成敗ってれべるじゃねーだろゴラァ!!」

伊達軍お馴染みの低音のは聞くものが聞けばすくみあがるそれであるが、残念ながら戦場に慣れきった佐助と幸村にはただの怒声でしかない。

「後日書状と慰安金送るからさ!独眼竜、今日の勝ちを譲るんで手を打ってよね」

その後の返答を聞かずに佐助の鳥が舞い上がる。
小十郎と成実の怒声が続くなか、その姿が見えなくなって漸く政宗は力を抜いた。

「政宗様!」
「梵っ!」
「Shit!猿も真田も今度は只じゃ済まさねぇ」

血を流しすぎた政宗は真っ青な顔色で悪態を吐く。
は目の前の出来事が信じがたく、両手で口許を覆い震えるしか出来ずにいた。がくがくと体が震える。薄く漂う立つ鉄さびのような匂い。政宗の鎧を汚す血に、いっそ卒倒してしまえたほうがずいぶん楽なはずだった。

「し、しんぢゃう、の、?」

地面に広がる赤、青い鎧を汚す赤。
不遜な笑みは苦々しげ歪んでいた。は震えを隠せなかった。
手首を軽く裂くのとは違うのだ。

「馬鹿野郎、縁起でもねぇ事言ってんじゃねえ」
「そーだよ、梵は天下を取るんだから、こんな所じゃ潰れないよ」

城の方から即席の担架やらがやって来て、さっさと政宗を乗せて医師の元へ運び出す。
その一瞬の合間に政宗は腕を伸ばした。

「心配かけさせてるな」
「心配、なん、か」

睨み付けてやれば涙が零れる。政宗はそれを見送り小さく苦笑して、の髪を一房撫でた。

「お前に怪我がなくて、良かった」

柔らかく笑った政宗が運ばれて行き、小十郎もそれに付き添う。
力なく膝をついたままのは、それを見送りながら成実に支えられやっと立ち上がる。

「どうして・・・」

どれに対する疑問なのか、自身掴みきれないままただふらふらと成実に導かれる城へと向かったのだった。









愛を知ったために