政宗の抜き放たれた六爪が蒼く煌めき、大地を抉る程の猛威を奮えば嘲笑うように幾多ものくないが飛来する。小十郎の一閃が雷電を生み出しそれを弾けば、幸村のニ槍が炎を渦巻き襲いかかった。 幾らか離れた場所ではそれを見る。これは夢か幻か?不本意ながら、成実に支えられていなければ立っていることさえ儘ならない程の衝撃だった。 「ちゃん大丈夫?」 「ぁ、れ、なんです、か?」 「あ、ちゃん梵達が婆娑羅技使うの初めて見たんだっけ?」 「ばさら、?」 絶え間ない轟音と怒号には足元が竦んだ。 あんな化物から逃げようとしたのか。むしろ逃げた先も化物とは、まさしく前門の虎、後門の狼。 「まぁ詳しく話しても婆娑羅者じゃなくちゃよくわかんない話だから割合ね。自然界の力を引き出すみたいなもんだよ」 成実が柔く笑う。 あの日を境に殆ど無視していたのだが対して気にしていないらしく、優しくを支えるだけだった。 「おい忍、テメェあの方が誰か知っての狼藉か?」 分身の影を切り捨て肉薄すれば、佐助は巨大な手裏剣で小十郎の刃を受け止める。金属がぶつかり合う鈍い悲鳴と火花が散る中、佐助はいぶかしむように片眉を上げた。 「誰って、側室の一人でしょ?」 その言葉に小十郎は言葉なく目を見開き、呆気に取られたのは政宗も同じで思わず幸村の炎を纏った飛び蹴りを受けてしまった。咄嗟に両手で防いだがやはり幾らか後退してしまい幸村は調子づく。 「ふざけんな猿、あいつは政宗様の正室だ」 「え、嘘だろぉ!?だってあの子桜井の家紋の入った小刀持ってたんだけど」 「桜井だと?」 政宗と小十郎の鋭い視線が成実に向けられる。話を聞いていた成実は直ぐにに向き直り、事態は理解できずとも主語に小刀を聞き付けたは胸元に隠した小刀をきつく抱き締めた。 それを見逃す成実ではない。 無理矢理の腕を捻りあげ、襟元に無遠慮に手を突っ込んだ。は羞恥の悲鳴を上げるよりも先に空いている腕を振って成実に抵抗する。 あれはダメだ。あれを奪われてはダメだ。あれは何度もの心を救ってくれた。危険な刃物であっても、にとっては精神安定剤にもなりうるのだから。 だがしかし、の抵抗虚しく成実の手に件の小刀が収まってしまう。盛大に眉間にシワを寄せた成実は政宗に向かってその小刀を投げた寄越した。 何かしらの事態を把握した幸村と佐助は仕方なしに武器を一時収めている。 政宗の傍に控えていた小十郎はそれを凝視し、に向かってどういうことだと低く唸った。 「」 びくりと肩が震え、九つの眼がを捉える。一切の逃げ場など初めから有りはしない。政宗は身体中の空気を吐息に変えて吐き出した後、六爪の内のひとつを振り切り、の愛する小刀をふたつに別けた。目の前で起きた公開処刑に、は思わず膝を着く。 死だった。それは、の安息を司る存在の消滅だった。 「話は後だ。真田幸村、続きといこうぜ」 「・・・よいのでござろうか?」 「あんたが気にすることじゃねぇ」 にぃやりと獰猛な笑みを見せた政宗は再び雷を呼び寄せ、その竜の爪を奮った。飛びかかられれば応戦するしかない。幸村は腹の底から声を張り上げ、炎を纏った。 「ごめんねお姫様。側室ならともかく、正室は人質にするには危険すぎる。やっぱあんた、要らないわ」 低く、耳に襲いかかる声音。 成実が同時に刃を横に薙ぎ、言葉の途中に佐助の形をした影が掻き消えた。 の頬に音もなく涙が伝う。 初めからどこにも希望なんてなかったのだ。 人質、と影が言った。 彼らは善意でを連れだそうとしてくれた訳ではなかったのだ。 政治的な意味合いを持って、を浚おうとした。 は声も無く涙を流す。 悔しいのか、悲しいのか、辛いのか、腹が立つのか、わからなかった。 成実の視線を感じながらも、そこに忍ばされた感情もまた、は判らなかった。 「随分不穏な発言だな!!」 「おっとぉ!危ないじゃん右目の旦那ぁ!」 「同盟中の国主の妻を浚おうたぁ、義に反するんじゃねぇか?真田幸村ぁ」 「な、なにをっ!」 六爪とニ槍がぶつかり合い、切迫した刃が競り合う。拮抗する力に刃が耳障りな不協和音を奏で、小さな火花を幾つも上げた。 ニ撃、三撃、打っては離れ、離れては打ち真剣がお互いの急所を狙い撃つ。 「死ねばいいんだ・・・」 低く、掠れた音は爆ぜる轟音の前に掻き消え成実の耳にも届かない。 「嫌い、嫌い、嫌いだ。みんなっ、大っ嫌い・・・!」 「ちゃん?」 段々と膨れ上がる音量は抑えることができず、すぐに成実の耳に届きその声と重なる。 は成実には一瞥もくれず、深い常闇の虚のような暗い瞳で、極彩色の戦いを見ていた。 「みんな、死んじゃえばいいのよ」 政宗も小十郎も成実。 甲斐の忍も虎若子も。 守ってくれないなら、傷付けるなら。 「みんな、死んじゃえばいいんだ」 桜の花が散るように、はるはらりと涙が散った。 呪いのように祈りのように、ありったけの憎悪を込めて吐き出せば、一層大きな破壊音がの鼓膜を震わせる。 「ちゃん!」 成実がの腕を取り、引き摺り後退しようとするが座り込むは動かない。宙を舞い迫り来る岩石の雨。 成実も婆娑羅者であるが、あんなものを一刀両断出来る程の猛者ではない。 振り降る隕石に、は鷹揚に笑って見せた。 死ぬんだ 彼らではなかったが、自分が死ぬのか。 理不尽だし、納得いかないとは思ったが、はもう、疲れきっていた。 逃げる気力も、生きる意味も、持てなかったし沸いてもこなかった。 だからただ、静かに迫り来る死の口付けだけを待つ。 不思議と恐怖はなかった。きっと一瞬で死ねそうだからに違いない。 は擦り切れた神経でそう結論付け、最期の一瞬の為に瞼を下ろした。 「 っ!!!」 その時の空気を切り裂く叫び声。 その音の羅列に反応するものは居なかった。 |