ついに一週間が経過し、政宗と小十郎が帰還した。 例にももれず、お出迎えを最前列でやらされたは面倒だと思う心情をひた隠しながら二人の前に立つ。 「帰ったぞ、愛」 「無事お帰り何よりです」 用意された台本通りに音を並べてやれば、政宗は嬉しそうに破顔して頷き、小十郎は冷ややかな瞳でを見ていた。まるで失敗を探る目だ。 は冷えていく胃袋が逆流しそうになるのを耐えるため、俯いて唇を噛んだ。 「俺の不在になにもなかったか?」 「ええ、なにもありませんでした」 成実に騙されたのも、他の奥さんにいびられたのも。愛姫じゃない。傷付いたのはだ。そしては存在しない。だから政宗不在の間はなにもなかったのだ。そう、なにも。 そう答えれば政宗は英語で相槌を打ち、の髪を柔らかく撫でた。 「会いたかった」 は会いたくなかった。それでも落ち着いた声音と、小十郎の瞳が拒絶を許さない。 は促されるように小さく頷けば、政宗は上機嫌ににハグし頬にリップ音を鳴らして口付けた。 「I returned. My house.」 西洋被れの城主に小十郎は嘆息し、やれやれと言った風体でいい加減入城を促す。 「政宗様、このようなところでは他の者の目に毒ですぞ」 「んだよ、妬くなよ小十郎」 「政宗様・・・」 「おい、冗談だからそんな目すんなって。 帰って早々だが軍議を開くぞ。テメェらは休んでな」 「へい!筆頭!」 賑やかな出迎えが終わり、みなはぞろぞろと城の中へと入っていく。も女中たちに連れられて、自室へと帰った。 あの日以来成実の面会は拒絶し、女中たちも遠ざけている。お茶やお華で気分が晴れる訳もない。 はただ残された自由の時間を自堕落に部屋の隅で横たわりながら過ごしたのだった。 夕暮れ、食事が済めば政宗の部屋に呼びだされる。 ああ、とは吐息と一緒に音を吐き出した。いい加減慣れた方が身の為なのかもしれない。 この世界に身寄りもなく生きる術もなく、かと言って帰れる保証もない。体と引き換えに衣食住が与えられるなら安いものなのかもしれない。 「政宗様、愛姫様をお連れしました」 「Ya.入れ」 着流しを着て煙管を吹かす政宗様に、女中は深く頭を下げて去っていった。 は大人しく部屋に入る。 当たり前に敷かれた一組の布団と二つの枕に嫌悪を感じた。 やっぱり諦めてるなんて無理そうだ。 「愛?どうした、突っ立ったまんま」 「いえ、」 大人しく腰を下ろせば、政宗はやけに真剣な隻眼をに向けてくる。 光射すのは月明かりだけて、蝋燭の灯は弱々しげに夜風に吹かれていた。 「愛、俺の不在に何もなかったか?」 「? ええ、なにも」 帰ってきた時と同じ問答に、は訝しげに小首を傾げた。 「You tell a lie.」 吊り上がった口角が三日月を描く。ゾッと冷える背筋には表情を強張らせた。政宗の腕が伸びてくる。 は瞬きひとつ出来ずに、緊張した面持ちでその腕の行き先を追った。 「What is this?」 捕まれ引き出された左腕。 夜着の袖から晒された細腕には、赤い筋が数本走っていた。 「あ、あなた、には、関係、ないわ」 震える声で反論しても、鋭い隻眼から逃れられるわけではない。 めご、と低い声がを呼ぶ。 怒っているのだろうか?怒っているのだろう。この身体はめごのものなのだった。 勝手に傷つけて気分を害さない訳がない。 「誰にやられた?」 「・・・」 「誰だ?」 唸るような低い声。 は深く俯いて、一時的に政宗の視線から逃れた。 「じ、ぶんで、したの」 「自分で?」 「だって、苦しいんだもん」 じわじわと涙腺が緩んで目頭に熱がこもる。は耐えられずに涙が溢れるのを頬で感じた。 「わ、私。わかんない、ど、どうすればいいかなんて。ここに、ふ、相応しくない、とか、言われっ、でも、本当は、私だって、わかってて・・・み、皆、私のこ、と、何も、知らないく、せに」 ひくつく喉が音を遮る。 なんだが泣いてばかりだと、の醒めた思考が囁いた。 「苦しいから、傷付けたのか?」 政宗の言葉にひとつ頷く。 短い嘆息の後、政宗はに問うた。 何が苦しい、と。 瞬間怒りが爆発する。 ふざけるな!と叫ぶ意識が脳内で反響して視界をぶらした。 熱が頭をもたげ、思考を赤く染める。それでも吐き出すことが叶わない怒りと憎しみは、細腕を裂いてやればそこからゆっくりと流れ出ていく。 精神が磨り減ったにとって、自傷行為は己を保つ最後の手段だった。 怒りがぐらぐらと腹で煮える。はあの鈍色の小さな小刀が恋しかった。今すぐ腕の細皮を裂いて、血と怒りを流したい衝動に駆られる。死ぬ気なんてない。恐ろしすぎて怖い。だが耐えられる程度の痛みはを現実に引き留める。 「めご」 政宗がゆうるりと吐息混じりにを呼んだ。 大きな掌が傷だらけの腕を撫でて、そっと唇を這わせる。 滑らかとか言い難いが唇が、瘡蓋に沿って動いた。 「痛みが欲しいのなら俺が与えてやる。二度とこんな真似は許さねぇ」 睨み上げてくる隻眼の鋭さに息が詰まる。 返答さえままならず、震えるは頷きも返せず政宗の瞳を覗いていた。 嗚呼、支配されてしまう 有無を言わさぬ腕が乱暴にの顎を捉え、唇を無理矢理抉じ開け侵入する。 ぬるつく舌がを犯す。 無言の抵抗も長くは続かず、力任せに押し倒され、頼りない夜着は容易く奪われた。露になる肌には悲鳴を上げた身を捻るが、政宗は構わずの柔らかな胸を乱暴に苛めた。 「何度抱いても初なままか。可愛いな、めご」 にたにたと悪どい笑みを張り付けた政宗を精一杯睨んでみるが、大した効果がないのはわかりきっている。 必死に涙を耐えるくらいにしか、には出来ない。 を見下ろし優しく微笑む政宗の口許は、相変わらずの三日月の笑み。は恐怖しか抱けなかった。 「俺が痛みを与えてやるよ、めご」 冷えていく心に政宗の言葉が忍び寄る。 本能的な恐怖がの脳に叫ぶ。殺される、と。 逃げようともがくの髪を掴み、政宗はそれを阻止する。 頭皮が焼けつく痛みに抵抗を収めれば、叩き付けられるようにして地に伏せさせられた。 瞬時に政宗の腕がを布団に縫い付ける。荒々しく唇を奪い、政宗は猛禽の如く口角を吊り上げ卑しく笑った。 「愛してるぜぇ、めご」 ひっ、と声を殺したは恐怖に戦きながら、必死に逃れようと自分を捉える政宗の腕に爪を立てた。 些細な痛みなど気にも止めず、政宗は猛る自身をの入り口に宛がう。然したる愛撫を施されていない其処は受け入れる大勢などできているばずがない。 政宗の意図を悟ったは、涙を溜めて政宗を見上げた。 「や、め」 「癖になるなよ?」 発火する体の中心を貫く杭の痛みには霰もなく悲鳴を上げ、一層強く政宗の腕に爪を立てた。 肉を裂こうとするの爪と、男根を喰い千切らんばかりの締め付けに、政宗はくつくつと男臭い笑みを浮かべて見せた。 「んなに締め付けんなよ、めご。気持ちいいのか?」 「ぃ、たぃ・・・やっ、抜い、てっ」 大粒の涙が雨のようにの頬を濡らす。息も絶え絶えに救いを求めるの様は、本人は気付かずとも煽情的なそれで、政宗は気分をよくして腰を揺らした。 「や、ぁ、やめ!いゃあ、ぁ、あ!」 「嫌?嘘つきだな愛。お前のここはこんなに俺をきつく締め付けてんのに」 無理矢理腰を動かし体重を掛ければ、のそこは一層締め付けを増し政宗の吐精を促す。 嫌がるに当て付けるよう腰を抱き上げ足を捉えて杭を打てば、露になったそこは白銀の雫を溢れさせ脈動していた。 「ah?痛いんじゃねえのか?愛、こんなに濡れてるぜ?」 「い、や、違ぅ、んぅ、違っ、あ、ゃ、あぅ」 ぐちゃぐちゃと響く淫靡な旋律にの弱々しい否定はあっさり掻き消される。 が拒絶を口にしようとする度に、甘い矯声が部屋を満たした。 政宗は律動を緩くし、の触れられる箇所すべてに口付け笑う。 「厭らしいなぁ、愛」 加虐的な笑みでを見下ろす。 は必死に意識を掴みながら、歯を喰い縛って快楽を耐えねばならなかった。 (殺して、やる。殺してやる。絶対、ぜったい、殺してやる) あの鈍色の光を思い描きながら、は呪詛の様に心中で繰り返す。 だがそれを邪魔する快楽は、二人を容易く絶頂に突き上げ甘い最果てにと誘う。 出すぞ、と低く囁かれ、直ぐに政宗の放った熱を感じながら、は堪え切れない絶頂の波に浚われた。開放の余韻に体を震わす政宗が、荒々しく愛していると呟いた。 「ころしてやる 」 涙と一緒に溢れた音。 政宗はそんなことは露知らず、の手首をねぶる。 「随分感じたみたいだが、こんなplayがお好みなのか?」 喉で笑声を鳴らす政宗は、の返答を聞かずにまた腰を押し進める。ぐちゃりと大きく響いた淫猥な水音に、の腰が艶かしく震えた。 「俺も随分火照っちまったからな。責任とってもらうぜ。You see?」 答えぬの頬をなぞり、肌を彩る汗と涙を舌で拭う。 「殺してやる」 唇から漏れる緋色の言葉は、微かな音だけを残して泡のように霧散した。 |