「ん、ぅ・・・」

重たい瞼をゆっくり開けば、天井の美しい木目が目に入る。
はて、とは目覚めたばかりの意識を斜めに傾けた。首をかしげる要領だ。
の家はどちらかと言えば洋風で、確かに和室もあるけれどそれはの部屋ではない。
は緩く上体を起こしながら辺りを見回そうとした。

「やっと起きたのか、愛」

深い場所を撫でるように発せられた声に、意識は急激に回復する。
はっと首を見回せば、衣服は違えど鳶色の混じる明るい黒髪、そして刀の鍔の様な眼帯で覆われた右目。
件の男に違いはない。
家でもない外でもない場所に、は恐怖と共にずきりと痛む腹に手を這わせた。
馴染みない感触を見下ろせば、白地に若草を誂えた上品な帯があった。

「な、に、これ」
「What is this?自分の着物も忘れちまったのか?」

男はからからとさも楽しそうに笑うのだが、にとっては忘れる以前の問題だ。
先にも言ったがの家はどちらかと言えば洋風なのだ。
それでなくとも自分の着物だなんて浴衣くらいしかもってはいない。
綺麗な蒼に染め上げられた生地には金糸で美しい花が彩られていた。ものの価値なんてわかりはしないが、決して安いものではないくらいにもわかる。
第一は着物ではなく制服を着ていたはずだ。
未だ続いているらしい勘違いには泣きそうになった。

「私、は・・・あなたのめごじゃないんですっ!本当に人違いなんです!だって私あなたのことなんて知らないし、名前もわからないし」
「Don't worry, 直ぐに思い出すさ」
「だからっ!」

違う、と言おうとすれば、男のやけに大きな掌がの頬に添えられた。

「俺が奥州筆頭伊達政宗、お前は俺の妻の愛姫に違いねぇ。黄泉の帰り道だ。忘れてたって仕方ねぇよ」
「伊達、政宗・・・?」
「Yes. My dear」

するりと頬を撫でられ、背中少しまで伸びた髪をひとふさ掴まれる。
恥ずかしいリップ音を残して唇を離した政宗は、ふわりと口角を持ち上げ微笑んだ。

「本当に会いたかったんだ、めご」

違うと叫ぶ気力を削ぐほどの柔らかな笑みには一瞬言葉を失う。
それが失態だったと気付くのはもう幾らか後であった。
政宗は優しくめご、と繰り返し髪を撫でる。子供のようにふうわり笑う政宗は唐突に「愛してる」と囁いた。
それは酷く突然でにとっては突拍子もない一言。故に瞬時に変化した視界についていけなかった事は責められない。
視界は振り出しに戻り、美しい木目の天井は遠い。
めご、めご、と政宗は譫言のように繰り返し、押し倒したの首筋に唇を落としたのだった。

「やっ!?やだ!やめて!嫌!」

やっと現状をとらえたはさっと血の気が引くのを感じた。
何をされるか、解ってしまった。
何が悲しくて見ず知らずの人間に人違いで抱かれなくてはならないのか!
は必死に手足をばたつかせたが、慣れない着物がそれを阻んだ。

「やだぁ!誰かぁっ!」
「めご、Please behave itself」

柔らかな声に反比例する握力に恐怖が煽られる。
第二声の悲鳴をあげようと息を吸い込んだ瞬間、狙ったかのように唇を重ねられた。
あまりのことに反応が遅れれば、ぬるりと滑る熱の塊が侵入してくる。恐怖に粟立つ背筋。悲鳴は相手の喉の奥に浚われ消えた。
逃げる舌を無理矢理絡まされ、嫌悪感に吐き気が生まれる。くちゅ、と汚らわしい水音に目眩。次第に酸素は失われ、は殺されるともがいた。
漸く唇が離されると、は空気を求めて大きく喘ぐ。恥も外聞も無く咳き込む。涙が零れた。

「可愛いな、めご」

政宗はまるでじゃれつく仔猫を見るように、優しく目を細めて微笑むのだが、はそれどころではない。噎せ返りながらも持ちうる限りの力で政宗を押し返そうとし、はっと瞳を見開いた。
キスの合間に施された拘束。柔らかな帯が幾重にも両手首を拘束している。滲み出る恐怖にはかたかたと体を震わせた。
大きく開かれた目からは雨粒のように涙が流れ、唇は冬の寒さのように小刻みに怯えた。

「っ、お願い・・・離し、てぇ」

掠れた声で懇願する。
政宗は痛ましく表情を歪め、そっとの頬を撫でた。

「No.I do not have them」

とても小さな声だった。だが絶望に突き落とすには十分過ぎる音量を有していた。
政宗は呟くように謝罪を告げ、の着物を手荒く暴いた。
嫌だ嫌だと泣きながら暴れてみても、男女の力の差は歴然で一向に事態は好転などしない。
はだけた胸が外気に震える。
それを覆い隠すように触れてきた大きな掌。異物が肌を這う感触!はますます身を捩り泣き叫んだ。だが政宗はもう謝ることはせず、遠慮がちに、それでいて欲望に忠実にの豊かな胸を柔くもんだ。肌を蹂躙される感触をはきつく目を閉じ現実を拒絶する。
だがもう片方の手が肌を撫で、腰を撫で、さらに下位を撫でようとする暴挙には絹を裂くような甲高い悲鳴を上げた。
しかしまたも深く口付けられ口内を荒らされる。意図的に悲鳴は潰され、くぐもった音だけが二人の体に響いた。
胸の飾りを弄ばれながら、もう片方が秘所に触れられる。
誰も知らない場所を暴かれる恐怖。は呼吸の合間に拒絶を叫んだが、のし掛かる男の体重の前には無力以下だった。
政宗は円を描くようにそこを刺激し、の快楽を引き出そうと試みる。
だが不安と恐怖に泣き叫ぶ身がそう易々転ぶはずもない。
早々に諦めた政宗は己の指に舌を這わせ、ぬるつく唾液を絡ませた。

「めご、あいしてる」

ゆるく、ゆるく、股に割り込み深い場所を探る。
悲鳴を上げ恐怖に戦慄く体が容易く受け入れられるはずもない。
痛みに涙を流してすすり泣くは頭を左右に振って懇願を繰り返した。
いたい、やめて、やめて、お願いやめて。
絶え間ない拒絶を聞かぬ為か、政宗は何度も何度も口付ける。
舌を伝う銀の糸が艶かしく輝いては政宗を誘惑してならない。
焦る己を自制しつつ、緩く抜き差しする指の動きは止めなかった。

「いや、いやぁ・・・やめて、おねがいっ・・・」
「めご、あいしてる、めご、めごっ」

く、と腟内で唸る指にの体が跳ねた。
どちらともなく理解する。
は一層泣きわめき、政宗は執拗に優しく其処を攻めた。
徐々にお互いの息が熱を含み始めたことに、は死にたくなった。悲鳴と拒絶と恐怖を溢すの唇は、徐々に意味の無い音を産み出す。体が熱い。助けて。

「めご、あいしてる、あいしてる、俺のめご」
「ぃ、や、ぁ、ぁ」

ぬるりと引き抜かれた指が鈍く光っていた。羞恥と絶望がを苛み追い詰める。嵐の雷雨の様に激しく流れる涙が汗と一緒に流れて布団の端にいくつか染みを作った。

「おねがい、やめてっ・・・」

荒い息を繰り返し、涙ながらに懇願する
政宗は片方だけの瞳を細め、捕食者さながらに唇を舐めた。

「めご、あんまり誘うな」

ひくりと涙をしゃくしあげは言葉を失った。
何という理不尽。何という身勝手。それらを嘆く暇もなく、政宗によって片足をもたげられる。
秘部が露になり、一層恥ずかしい体勢に仕立てあげられは羞恥の悲鳴を上げた。
着物の下から政宗の猛る男根が晒され、そのままの入口に宛がわれる。
圧倒的な熱量に身をすくませる。肉体は意志に反し微かに箇所をひくつかせた。

「や、いやぁ、おねがいっ・・・やめ、」
「めご、あいしてる」

本日何度目かの呪いの言葉を合図に、政宗の肉棒がの器に挿入される。
指を凌ぐ質量に、は身を堅くして拒絶した。
意識的にではなく、恐怖に唆された防衛本能。だが政宗は器用に舌で胸元を遊び、快楽を打ち上げそれを滲ませる。
汗ばみ匂いたつ肌に口付けを繰り返す。は幼子のようにいや、いやと繰り返し呻いた。
しかし政宗は聞き入れず、腰を押し進めてはを制圧する。

「全部、入ったぜ。めご」

耳元で告げられた絶望には顔を覆った。両手首は未だ拘束されている。両腕を顔に押し付け、は泣き続けた。

「めご、泣くな。愛してるから、もう離さねぇから」

違う、違うの。と繰り返すの肌に政宗は宥める意味で再三口付けを降らせる。
そうして柔らかな肌をゆっくり味わい、折れてしまいそうな腰を捕らえた。

「動くぞ」

ひとつ、緩く律動を与えれば肉がぶつかる音がする。同時にぐちゅ、と淫隈な音が高らかに響いた。

「やぁ、あ、ぁぁ、いや、ぁ」
「めご、めご、」

肉を包む暖かさに、政宗は理性が霞むのを自覚した。
愛と欲が混ざり合い、思うままに腰を揺らす。時おり跳ねるの体の艶やかなこと。
淫靡なそれに誘われるまま、政宗は噛み付く様に唇を奪い、たわわな胸を揉みほぐす。体全体でにのし掛かかり、高い位置から杭を打った。
心の臓はいよいよ節操なく喚きたて、歓喜を歌い血を運ぶ。
律動を止むことなく器用に指先を滑らせれば、の内腿を伝う赤を掬った。
人差し指を染め、そのままの唇をなぞる。

「綺麗だ、めご」

うっとり微笑みもう一度口付ける。汗と血の、戦場の味がした。
熱に浮かされ腰を早める。ひっきりなくあがるの悲鳴から、微かな甘さを探り出せばそれは耳に優しく政宗を絶頂へと誘った。

「めご、めご、めご、」


熱を孕む言葉が溢れて積もり、激情の望むままに欲望を追い掛ける。

政宗は、のか細い悲鳴を聞きながら、その小さな体に白濁した想いを放った。

「めご、あいしてる・・・」

甘やかな告白の返事は、小さなすすり泣きと、大きなしゃくりだけ。
政宗は舌先で涙を拭い、もう一度愛してる、と囁いた。


「ぃ、ゃぁ、放、しっ、もぅ、許し、て」

私はめごじゃないの。そう嘆くの声を掻き消すように、政宗は強くを抱き締めた。

「愛してる。あいしてる、めご」

夜まだ長い。
闇の登張をかき集め、政宗はの体を再び暴いた。
琴線を弾くようなの悲鳴が高く響く中、政宗は何度も愛を囁く。何度も愛を打ち付け、何度も愛を吐き出した。
夜はまだ長い。
は政宗の腕に抱かれたまま、気を失うように意識を手放した。









途切れた昨日に

サヨナラも告げず