知らない街。 知らない景色。 知らない人だらけ。 ここに、私を知る人は誰も居ない。 幸村くんと政宗さんがトイレに立って、残された私はアイスコーヒーを飲みながら喫茶店から外の景色を見渡した。 母さん達は、心配してるだろうか? 私の身を案じているだろうか? それとも、家事が滞る事を心配しているだろうか? そこまで考えたら自嘲的な笑みがこぼれた。 必要とされたい。 一人は嫌だ。 感謝されたい。 無償で、ただ居る事を許されたい。 そんなくだらないことを考えていると頭がぐらぐらする。 仕事も、無断欠勤してしまった。 なんだかもうどうでもいい。 からからとグラスの中で氷が音を立てる。 温くなりだしたアイスコーヒー。 一気に飲み込めば、胃の辺りに全て収まった。 ふぅ、と一つ息を吐いてカップを置く。 「殿!」 「そろそろ帰るぞ」 幸村くんと政宗さんに現実に連れ戻される。 いや、夢の中へ誘われる、と言ったほうが正しいかも知れない。 「わかった」 そうして私は席を立つ。 会計を済ませれば、両手を幸村くんと政宗さんに掴まれた。 「両手に花、なんてなぁ?」 意地悪く笑う政宗さん。 とても高校生には見えない大人びた笑みに、確かにそうだね、と私は短く反しておくことにした。 安心して呼吸が出来る。 何もかも投げ出しているのに、二人は何も言わない。 その優しさが、心底嬉しかったんだ。 |