夕食のあと食器を洗い、テーブルを片して夜のうちに洗濯物を畳んでしまう。お風呂の入浴の順番はだいたい最後なのでそのまま掃除をして翌日の作業を減らしておくのが毎日のことだ。
全ての仕事が終わって私はやっとリビングに腰を下ろす。

「もう、いや」

自分でも驚くほど淡白な声。

繰り返される毎日に終止符を打つため着の身着のままに立ち上がる。
自分の財布をカバンから抜いて、それだけを持って玄関へと向かった。
少し古びたお気に入りのハイカットのスニーカー。

、あんたどこいくの?」

部屋から出ずに母が問う。
仕事に疲れたその声音にはなんの感慨もわかなかった。
私も疲れてるんだよ?
そう言おうと思ったけど、やめた。

「ちょっと、コンビニ」

それだけ言って返答も待たずに家を出た。
どうせ返答なんてロクになかったんだろうけど。

実家らしで兄姉三人。
私は末っ子、上に一人ずつ。
長男は結婚で子供もいる。
長女も結婚した。けど結婚に失敗して息子と一緒にで戻り中。
親の親、つまり祖父母も健在(とも言いがたいが)まぁ元気だ。
四世帯に渡る人間が一個屋根の下に住んでいる。

一番下のしわ寄せを受けるのはもう嫌だ。
だから私は逃げる。

突然じゃない。

ずっと前から、考えてた。

もやもやを抱えたまま夜の町を歩く。
慣れ親しんだ道を照らす街灯に群がる虫。
生温く吹く風に髪が遊ばれてゆらゆら揺れた。

駅の前で一度振り返る。
人通りのない田舎町。
目的地は未定。
有り金持って券売機の一番遠いボタンを押した。
聞いたことのない駅名。
終電の一本に乗り込む。

がらんどうの電車の中一人腰を下ろした。

緩やかに進みだす電車の振動の心地よさに、私はゆっくり瞼を落とす。
どこに向かうんだろう。どこに行けばいいんだろう。
淡い期待と希望を抱いて、最終電車が私を運ぶ。






そうして彼女は逃げ出した