「恋慕の情だよ、ってね」 くるりと手の内でクナイを遊ばせ佐助は笑う。 木の下では政宗が不服そうに眉をしかめていた。 「恋は破廉恥だって言ってた本人が、竜や風来坊に嫉妬の嵐。まったく伝えるのにも苦労したよ俺様」 「Shit!余計なことしやがって。真田には勿体ねぇ女だよ、はな」 「でもま、あの幸村があんな激しくちゃんを抱きしめるなんてねぇ!ありゃあ本気以外でも何者でもないね!」 「のヤツ・・・真田捨てていつでも俺の所に嫁ぎに来いよなー!!」 「もー竜の旦那早く帰えんなよ。右目の旦那に絞られるよ?」 「愛しい女を置いてて国に帰るなんてな・・・」 「ちょっとかっこつけないでよ。ちゃんはうちの旦那のものになったの!」 馬の手綱を引きながら、未だに渋る政宗に対して今にもクナイを投げそうな勢いで佐助は声を上げた。 恋と疎遠だった主の春だ。 これを守らずしては忍頭の名が廃るとでも言うような表情である。 「しっかし忍びのあんたが手ぇ貸すなんてね」 「自分の主の明るい未来のためなら時間外労働も厭わないの、俺様」 「涙が出るぜ、猿飛よぉ。それにしても」 「正直な話、幸村にちゃんは勿体無かったなぁー」 からからと笑う慶次は名残惜しげに上田の城を見上げた。 恋に破れた男二人、繕うように意地悪い笑みを向け合う。 「結納は呼んでくれよな!」 「花嫁浚う勢いで来てやるぜぇ!」 「今川みたいなことしなくていーからとっとと帰んな御二方!!」 とうとう投げられたクナイから逃れるように駆け出す慶次と政宗。 その後姿を見送りながら、佐助は小さく息を吐いた。 「まったく、しっかりちゃんを捕まえといてくれよな、旦那」 日本晴れの空を見上げて佐助が呟く。 上田城からかすかに漂う甘い香り。 どうやらこちらが心配するまでもないらしい。 芳しい団子の香りに、破顔んする主とその妻となる人の笑顔が浮かんだ。 「さぁて、大将に報告に行きますかっと」 そうして忍は飛び立つ。 脳裏に美しい少女の白無垢と、偉大な六文銭の紋付袴の主を思い浮かべながら。 めでたしめでたし |