「ダメでござる・・・」 「旦那の頭が?」 あまりにも主に対して不敬なので殴ってしまったのは致し方なし!! いや、まだまだ某が未熟ゆえ!! 「叱ってくだされお館様ァァァァァ!!!」 「あいたたた、で、どうしたのよ旦那」 「う、うむ・・・それが」 殿が政宗殿のところに浚われ・・・連れられてもう二週間ほどだろう。 一ヶ月まで後半分もあるのだが・・・ なにか、こう、もやもやと何かが胸につっかえるのだ!! なにかの病かと思って薬師を呼んでみたが健康そのものといわれるし。 城のものに離して見てもみな揃って首をかしげるばかり。 そのうち女中の一人が言ったのだ。 「もしかしてまだ見ぬ謎の病気ならば、異世界から来た様ならなにかわからいでしょうか?」と。 そう思えば思うほど殿に逢いたくなったというか・・・違う!あ、逢わねばならぬような気がしてならのだ。 鍛錬中も政務の最中も。 なぜかいつも殿の笑顔が頭に張り付いてはなれぬ。 相変わらず胸にはわけのわからぬ突っかかり。 眠りは浅く、昼間からぼんやりしてしまい鍛錬にも身が入らぬ。 俺はきっと怪しき病に違いないのだ。 「・・・・・・・・・・はぁ」 「佐助、相槌の間はなんだ?」 「いえ、別に・・・」 な、なので俺はいったいどうすればいいのだろうと悩んでおるのだ。 このままでは名ばかりの城主になってしまう。 お館様からお預かりしたこの上田を、某のせいでダメにしてしまう。 それでは行かぬと思っておっても、一体どうすればいいのかわからぬのだ。 「・・・旦那ぁ」 「なんだ、佐助」 「もっと自分に素直になればいーんだよ」 「旦那は今一番何がしたいのさ。真田源次郎幸村は、今一体誰に会いたいわけ?」 「某は・・・」 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!闘・魂・絶・唱!!伊達政宗殿ぉぉぉ!!殿の身柄を引きうけたくこの真田幸村参った所存でございまするぅぅぅぅ!!」 「Shut up!!真田幸村!!てめぇの声はうるせーんだよ!!」 「幸村さんだー!!幸村さん幸村さん幸村さーん!!」 「!テメェはもっとおしとやかにしてろ!!せっかく着飾ってんだから!」 「政宗さんにいきなり着せ替え人形にされたときはマジで引きましたけど幸村さんに晴れ姿が見せられるなんて感激ー!」 「なんでちゃんそんないい服着せてもらってんの?」 「さっきまで伊達の三傑で集まってたんだ。そのときに政宗様がお披露目を」 「お披露目って・・・」 「幸村さん!はやくあたしをエロ魔人政宗さんから救ってくださーい!」 「なっ!!政宗殿!!破廉恥であるぞぉ!!」 「濡れ衣だ!!ちっ!!もういい真田幸村ぁ!!また決闘したいってんなら相手してやるぜ!!」 政宗殿が六等の刀を構える。 対する某も二本槍をしっかりと向けた。 緊迫した空気が振動するのが感じる。 向けられた殺気に含まれる苛立ち。 某もほとんど同じ感情を風に乗せた。 「幸村さん!!」 「殿!?」 殺気漂う雰囲気を無視して殿が政宗殿と片倉殿の間から飛び降りた! そ、双竜陣の上からだ! 驚いていた某だが、殿は難なく着地し、某に向かって精一杯腕を伸ばしていた。 青い羽織から延びるたおやかな白い腕。 なびく黒髪は美しく絹のようで、涙に濡れた瞳は、初めて逢ったあの時と寸分の狂いもなく。 そしてあの熟れた果実の様な唇が俺の名を紡ぐ。 どくどくと全身の血が滾る。 某は、無意識に、腕を伸ばしていた。 「幸村さん!!」 一気に走りぬけた殿は、某の腕の中にすっぽりと入ってしまうほどに小さい。 ああ、殿はこんなにも小さな方だったのか。 「逢いたかった・・・」 涙に濡れた声に、某も、と勝手に言葉が口をついて出ていた。 ← |