ある程度俗世にハマりゃあいろんなことを覚える。
たとえば一つがトリップ小説。
ごく平凡な人間がほんの些細なことをきっかけに、異世界とか漫画、ゲームの世界に飛ばされてそっちの相手といい感じに恋愛できるって話ね!

つまり、今これはトリップってヤツなのね!!

「つーかそんなこといいから誰かたすけてぇぇぇぇぇ!!!」

神様、仏様、女神様!
誰でもいいから答えてください、そんなにあたしが嫌いですか!?

そして前略お父さんお母さん。
は今日、死にそうです。

「だ、れ、かあぁぁぁぁ!!」

後ろから追っかけてくるのは熊だよ熊!!
熊の●ーさんとかリラッ●マとかそんなレベルじゃない!!
コレはヤバイあきらかになんか「え?冬眠明けですけど何か?」みたいな顔してから追っかけてきたもんマジでぇ!!

おかしい。
あたしはついさっきいつもの調子で学校の帰りにコンビニでお菓子買って出てきただけのはずなんだ。
どこにもトリップする要素はなかったはず!
ああ、でもトリップってしてみたかったんだよねぇ。
でもだからって背後に熊の強襲とかなくね!?
ほんとないよこれマジで神様ぁ!!
もしも会う機会があるなら絶対ぶっ飛ばしてやんよ神!!!

「あ!?」

ってうわああぁぁぁ!!
神様の悪口を言ったせいに違いない!!
足元にめこっともり上がっていた木の根に足がひっかかったぁ!!
どっすんと酷い音を立てて顔面ダイブ。痛い!

そんで持って後ろからズン、と太い足音。

そろーり後ろを向いたら、ああ熊さんがよだれたらしながらこっちを見ている。

「あ、あの・・・あたし、結構脂肪ばっかりだと思うから食べても体に悪いと思う・・・よ・・・?」

ね?と熊に向かって首を傾げてみたけど効果なんてない!

「グォアアアア!!」
「ひやああぁぁぁぁああ!!」

あたしもう死んじゃうんだぁ!!まだ見たかった映画もあったし欲しかった本もまだ買ってないし結婚だってしてないしああもうとにかくやり残したことが一杯あるって言うのにこんな所で死んじゃうんだあたし!

「そなた!!!」

はぇ!?とか思ってる間に森の奥から白い馬が一頭!白馬?白馬!?
ぶわ!!と跳躍した馬が熊とあたしの間に飛び込み、次の瞬間には視界が真っ赤になった。
え!?なになに!?流血の惨事になっちゃった!?あれ?でも何処も痛くない。

「無事か?」
「え?」

ふわりと地面に足がつく。
あ、つまり抱っこされてた?あれ、つーか姫抱っこじゃん!!

「あの熊、冬眠明けで大分気が立っておるようでござる。暫し、目を閉じておられよ」
「は、はひ・・・」

真っ赤だったのはこの人の服らしくて、紅いジャケットに白いズボン。
それからってあの人ジャケットの下、裸!?え、エロイ!!

「破っ!!」

その人が二本の槍を突き出し攻撃を繰り出せば、熊がぐるんどっすんって地面に倒れた。
ふぅ、と一息ついたら紅い鉢巻と茶色の尻尾みたいな髪がふわりと揺れる。

「もし。そなた、無事でござったか?」

うあああああああああああああ
神様女神様仏様もうご先祖様込みで全世界の人に感謝と愛を!!

「もし?」

こちらを振り向いたその人は、あたしが何も言わないでいると心配したようにあたしのほうに近づいてきた!
らめぇぇぇ!そんな顔で近づいてきちゃらめぇぇぇ!!

「そなた、もしやどこか怪我をっ!?」

その人ががしっと私の両肩をつかんだ。
もう駄目!触られたらばれたかもしれない!!
こんなバカみたいに心臓がうるさいんだもん!!

「・・・・で、す・・・」
「む?なんだ?」

「好きです」

あたしは両手を胸の前で組んで、うっとり少女マンガみたいに頬を染めてその人に愛を囁いていた。



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コンビニを抜けたら




森なのでした!