act,8







、帰るぞ」
「う・・・んー?」
「どうした?」

隣のクラスの三成は私の幼馴染だ。
三成はちょっと口が悪くてプライドが山みたいに高くて心の機敏に疎い駄目な子だ。
豊臣先輩の崇拝者で気に入らない奴はすぐガンつけて喧嘩買う様なおばかな子だ。
そんな三成との付き合いは幼稚園の頃からで、ほとんど毎日私達は一緒に帰っていた。
そんなあたしだけど三成がこの日に紙袋を持つ日が来るとは思わなかった。

「三成・・・モテたんだねぇ」
「そういうものか?無記名が多くて何があるのかわからん」

まぁ三成は顔が悪くないから三成のことよく知らない子は一目ぼれするかもねぇ。
夢を壊すようで悪いけど、この男は豊臣先輩と竹中先輩しか頭にないような人だ。
かわいそうに一ヵ月後のお返事なんて期待できないよ。

「俺は日ごろ人の恨みを買っているからな。毒でも入ってそうだ」
「自覚あったんだ」

思わず苦笑したら三成はいやそうに眉を寄せた。
三成はいつも心底嫌そうにそういう顔をする。素直すぎるのだ、自分の感情に。

「でも、あ、これ名前ある。一年のサワダリカだって。こっちは?ミツイヒロ。あらあら豊作じゃんこの子ら確か野球部とバスケ部のマネの子だよ?どう見ても手作りだし、あたりじゃん」

かわいいピンクのラッピングの箱を取り出して見せれば、それでも興味なさそうに三成は頷くだけだった。
さっきも言ったけど三成は豊臣先輩と竹中先輩にしか興味がない。
ふたりが回す生徒会。その役に立ちたい一心しか三成の中にはない。
直線的すぎるとは思うが、それが三成のいいところでもある。
恋にうつつを抜かす暇は無いなんてことは言わないけど、三成があの先輩ふたり以外のことに時間を割くとも思えない。
しかし、こうして紙袋を持つみつなりの隣に並んで歩く私だけど、非情に渡しづらい。
毎年三成のリアクションは変わらないし、第一紙袋が必要になるくらいチョコ貰ったらもういらなくないだろうか。
それほど甘いものが好きだというわけでもないし、迷惑にならないか?
最悪自分で食べるという手もあるし・・・いや、たぶんそうなるだろう。
三成は感情を隠さない。
嫌だったら嫌な顔するし、嫌じゃなかったらまぁ真顔?
長い付き合いだけど三成のあの心底嫌いだという時の顔はなかなかメンタル的打撃がある。
うん、やっぱ上げないでおこう。
こうして私の心の平穏は保たれる。

「おい」
「なに?」
「ないのか?」
「なにが?」
「チョコだ」
「・・・そんなにあったらいらなくない?」

左手の紙袋を指差して言えば、三成は納得したようにそれもそうだな、と頷いた。
確かに私からのチョコは毎年恒例だったからだけど、うーん。あっさりすぎてこれはこれで虚しいな。
いや別に傷ついてないし?ちょっと、残念だっただけ。


「もう、なに?」
「チョコはないのか?」
「だから、そんにあるならもういいで」

しょ?そうというあけようとしたのに三成の持っていた紙袋はない。

「お前以外からのチョコに興味はない。早く寄越せ」
「え?え?さっきのチョコは?」


一瞬で紙袋が消えるなんてイリュージョンだ。うろたえる私をよそに三成は顎で向こう側を指す。相変わらず憎いくらいの沈着具合になんだかなぁって気分。
そして三成の視線の向こうには上履きのロッカーの間にあるゴミ箱がある。
そこにある山、見覚えのある白い紙袋。

「あるんだろう?」

そうしてにたりと笑う顔はなんだか意地悪をする子供みたい。
本心の笑顔でもこうもすがすがしくない笑顔もないだろう。
女子の気持ちを踏みにじった三成だけど、私の気持ちが優先されたことばっかりは嬉しくなる。
私も、この三成との付き合いで随分歪んじゃったらしい。
ゴミ箱に突っ込まれたかわいい一年生たちの思いに、私はざまあみろと内心微笑む。
酷い女。でも、馬鹿な男には丁度いい。

「家にあるから、帰りに寄って?」

意識的に上目で問えば、やれやれといった風に三成は肩を揺らす。

「家に寄るだけだぞ」
「もちろんよ」

なんていいながら、きっと私はあれこれ手を使って三成を引き止めるんだろう。
三成も、結局最後はいつもみたいに満更でもないとあの悪い笑顔で笑うんだ。

酷い女と馬鹿な男。
しかし私たちは丁度、こうもつり合ってしまうのだ。






送り狼の


嬉しい誤算