act,6 バレンタインと言うイベントは毎年元就君の捨て駒さんたちが、元就君に甘いお菓子を貢ぐ日だった。 かくいう私もきちんと用意している。 元捨て駒の習慣性と彼女という意地。 恥ずかしながら手作りであるチョコレートを胸に、私は生徒会室の前を行ったり来たり。 だってそうでしょう! もし元就君が不味いってなったらきっと私はまた捨て駒降格。 いや、捨て駒にさえしてくれないかもしれない。 やだ、ああ、こわい。 でも頑張って作ったんだし。ああ、でも、いや、うーん・・・ 「さんっ!!こんなところにいたんですか!?」 「ひぇっ、リーダーさん!?」 リーダーさんとは捨て駒を纏めるリーダーさんだ。 元就君の右腕と呼ばれるすごい人。 私も捨て駒時代にお世話になったなぁ。あ、リーダーさんにお世話になりましたチョコ用意すればよかった。 「リーダーさんたくさんお世話になったのに私リーダーさんにチョコ用意してないんです」 「私のことはいいから早く元就様の所に行ってください!!」 「えぇぇ!?」 リーダーさんの俊敏な動きで私はさっと腕を捕まれガラっと開いた生徒会室の中に荷物みたいに放り込まれた。 突然すぎて顔からダイブしたのにリーダーさんは無情にもそのままの勢いで扉を閉める。 ひ、ひどい・・・ 「・・・、か」 生徒会室の中にはすでに山盛りのチョコの山。 赤やらピンクのかわいい箱に黒やゴールドの高そうな箱。 あ、あれ雑誌で見たことある。フランスの一流ショコラティエの限定チョコだ。 すごい、さすが元就君。貢物のレベルが普通じゃない・・・ 「貴様、我の声にこたえぬとはいい度胸だな・・・」 「ご、ごめんなさい聞こえてます!!」 急いで立ち上がって埃を払って昔の癖で敬礼をしてしまう。 そしてら元就君は心底バカを見るみたいな目で私を見た後溜息をついてしまった。 どうしよう、何か駄目だったんだろうか。 「、今日が何の日かわかっているだろうな?」 「う、うん、ば、バレンタインだよね。元就君すごいね、今年もこんなにたくさんチョコ貰って」 「そうだな」 「雑誌に載ってるようなチョコもあるね!きっとおいしいと思うよ!」 「そうなだ」 「も、元就君・・・?」 「なんだ」 「お・・・怒ってる?」 無表情の冷たい目はいつものことだけど、今日は無表情の上に視線が怖い。よくわからないけど、いつもと種類が違うことだけは確かだ。 「・・・、貴様、我にチョコレートはないのか!?」 かっ!!と刮目して立ち上がった元就君。反動で机の上のチョコの箱の雪崩が起こるけど気にする様子はなさそうだ。 も、もったいない!高級チョコレート!形崩れちゃったりしちゃうよ!? 「だ、だってこんなに高級チョコとかあって、わ、私、て、手作りだし」 「だったら尚更何故早く渡さぬ!?」 「えぇ!?だ、だから、元就君の口に合わなかったら、い、いや、だから」 「うるさい黙れ!さっさと寄越さぬか!!」 「あっ!!」 反論も抵抗も許さない元就君が私の腕からチョコの入った箱を私から奪い取った。 目の前で放送を解いていく元就君。 最後の箱を開いた中にはがんばって作ったザッハトルテ。 元就君はすぅっとめを細めてそれを見た後、以外にも手づかみでそれを口に運びはじめた。 「も、元就君っ・・・」 綺麗好きの元就君がものを手づかみで食べるなんて、驚きだ。むしろ新発見かもしれない。 そんなあたしを無視して元就君は二口、三口とチョコを齧る。 はらはらバクバクと心臓がうるさい。生きた心地がしない。 もしも降格だったら?捨てられたら?どうしよう。明日から生きていける自身がない。 「」 「っ、はい」 どうしよう、どうしよう、どうしよう! もとなりくんわたしのことすてないでっ 「美味い」 「・・・へ?」 「まったく、何をうだうだ考えておる。貴様は我のものだ。捨てるはずも何もなかろう」 「え、え、な、なん、で」 「鏡を見るがいい。顔に書いてある」 そして元就君はハンカチで指を拭くと、私の前に来て綺麗になった指で私の頬をなぞる。 「泣くな、」 「うっ・・・」 「我はお前以外を傍に置く気はない。お前は何も気にせず、我の隣にいればいい」 「も、と、なり・・・くっ・・」 かみさま、私幸せです。 どうすればいいかわからなくなるくらい幸せです。 私はバカで美人でもないしスタイルが良い訳でもない。 頭の言い元就君のパシリくらいしか出来ません。 でもお願いです。どうかまだ私を殺さないでください。 どきどきで心臓が壊れそうです。お願いします、まだ私を殺さないで。 「・・・、我の前にいるのだ。我のことだけに集中しろ」 そう言って、元就君が私の髪を耳にかける。 元就君の綺麗な顔が私の目の前にある。 ああ、死んじゃう。 この瞬間、私のすべては元就君でいっぱいになっちゃったんだと思う。 「元就君、すき」 瞼を閉じた黒の向こうで、元就君が優しく笑った気配がした。 |