act,4








バレンタイン。
正直手先は器用じゃないので真っ先に市販品を手に取った。
政宗に小十郎の好みを聞いて、甘すぎないお酒入りのやつ。
私は普通に甘党でそんなにお酒好きじゃないからこれでいいのかわかんなかったけど、政宗が太鼓判押すくらいだから大丈夫か。

あああでもバレンタインなんてとか思ってたけどすごくドキドキしてきた。
青春する中高生でもあるましい、でも小十郎がどんな顔するかと思うとにやにやが止まらなかった。
ありがとう?サンキュー?旨そうだな。俺好みだ。
ああなんて言うだろう?どんな風に笑うかな?
市販品だけどちゃんて愛はこもってるって言ったら驚くかかなぁ?
はぁ、小十郎に渡すときになんて言おう?
いつもありがとう?すきだよ?
あまいものすき?
なにが一番いいかな?
ああドキドキしてきた。

チョコはこっそりリビングに待機済み。
何気なさを装って出せばいい。
ドキドキうるさい心臓をぎゅっと押し込んで、あたしは小十郎がいるリビングに入る。

「小十郎ー、ってええええ!?」
「ん?、どうかしたか?」

どうかした?どうかしたかじゃないわよ!?
な、な、な、なんであたしが買ったチョコ食べてるの!?うえええええなななななんで!?

「こ、小十郎・・・」
「どうした?そんなつっ立って」
「なんでそれ食べてるの!?」
「小十郎へ、って書いてあったぞ」

書いてあったぞってそうですけど!小十郎の為に買ったチョコですけど!!なんであたしが渡す前に食べてるのよ!?

「小腹空いてな」
「さいあく!あたしのドキドキを返せ!」

柄にもなくうきうきしながらチョコを買ったんだ。
小十郎が喜んでくれるかなって、そんなこと考えながらチョコをかったのに!
何て言って渡そう?何て言って受け取ってくれる?
チョコ買った日からずっとそんなこと考えてたのに!

「小十郎のばかぁ・・・」
「おい、泣くなよ」
「うるさいっ、あ、あたしが、どんな気持ちでっ」
「嬉しかったんだ」

小十郎がふと真剣な顔してそんなことを言う。
私の腕を引いて、ソファーの上に腰を落ち着けるとあたしの目を見て小十郎はもう一度口を開いた。

「嬉しかったんだよ。
「う〜」
「お前去年は何もくれなかっただろが。だから・・・つい」

そういってふいと視線を外す小十郎。
確かに去年は何をあげればいいのかわからなくてなしくずしに流れた。
小十郎、案外根に持ってたんだ。
恥ずかしそうに視線を泳がせる小十郎が変なところが子供っぽくて、思わず笑える。

「おい、笑ってんじゃねぇ」
「だって」

肩を震わせて笑うと、反撃とばかりに小十郎もにやりと歯を見せた。

「で、お前はどんな気持ちでどんな風にドキドキしたって?」

政宗によく似たニヒルな笑みは、狡猾なドエス顔で私に詰め寄る。
思わず滑った口にはもう蓋しても遅い。
あたしは知らない!と必死に顔を背けたが、小十郎の頑丈な腕の中から逃げられるはずがない。

「おら、さっさと吐け」
「やだー!小十郎離せっ!」

暖かい頑丈な腕があたしの腰回りをきつく抱く。
恥ずかしいのと同時に、くっついた体温が気持ちいい。



小十郎が低いアルトのセクシーな声であたしの名前をなぞる。
あたしはついつい調教された犬みたいにピタリと動くのをやめた。
小十郎の大きな掌があたしの顎を撫でて、それからぐいと捕まれる。
キスされる。
期待に滲む胸が熱くてあたしは小十郎に擦り寄った。
触れた唇が甘い。
滑り込んできた舌も熱い。
トロリとした感触。チョコレートの甘さ。

「こ、じゅ・・・」

同時に染みた苦い味。
アルコールの火が私の導火線に火を付ける。

「エロい顔しやがって」

低く響く小十郎の声に、あたしの腰はどうしようもなく痺れるのだ。
小十郎がもう一回あたしにキスする頃には、さっきの怒りの形はどこにもなかった。
まるで、チョコレートみたいに溶けたんじゃない?






チョコレートの


甘い効能