act,3 甘ったるい匂いが町中にしちゃってるよまっく。 なんてってバレンタインだもんねぇ。え?俺様?彼女? いるに決まってるじゃん! ん?かすが? いやぁかすがはただの幼馴染みだし、あいつ上杉先生にメロメロじゃん? 小太郎とお揃いの義理が回ってきたら上々ってこと! それに俺様、チョコはもらうよりあげたい派だし。 俺様の彼女、ちゃんってゆーんだけど手先がすんごい不器用でさぁ。料理作らせたら十中八九バイオテロ。うん。まぁそこも可愛いんだけど! 俺様料理もお菓子も作るのは苦じゃないし、それに尽くしてあげたい男だし? 知らない人からチョコもらうより、可愛いちゃんにチョコあげる方が楽しみなのさ。 今日はバイトっていったけど実は休み。 今のうちにチョコ作って素敵なディナーの準備。で、夜はドルチェにちゃんをって流れ。 下心? あはー、お馬鹿さんだねぇ。恋人とイベント過ごすのに下心のない男なんて居ないわけないっての! 「っと、電話だ」 人が調子よく料理してたってのに。ディスプレイ見たら慶次だった。珍しい。 「もしもし?けーちゃんどしたの?」 『もしもし佐助!?今家かっ?』 「なに?家だけど・・・」 『悪い止められなかったんだ!だってまつ姉ちゃんがっ!』 「なんなの?お宅のまつさんがなんだって?」 『だからバレンタインだからって、うわっ来たぁ!』 「ちょっ、慶次!?」 『慶次!お待ちなさい!乙女の純情を告げ口とは男の風上にもおけませぬ!!』 『まつ姉ちゃっ・・・ちょ・・・さす・・・いそい・いぐ・り買って・・・け!!』 まつさんの声に掻き消されて慶次の声がうまく拾えない。 思わず首をかしげたら受話器の向こうでなにかが割れる音に続いて通話が切れた。 恐らくまつさんが薙刀を振り回したんだろう。あいかわらずアクティブなおねえさんだこと! しかしいったい何を伝えたかったのかさっぱりだ。 かけ直そうにも不通だ。電波が入ってないらしいけどつまりまつさんに携帯を破壊されたんだろう。 「ま、いっか」 慶次よりもちゃんだ。 ちゃんの好物をたんまり作ってローマンティックなバレンタインを過ごすんだしね! そうこうして約束の時間にちゃんがインターホンを鳴らす。 俺様は鏡の前で笑顔に下心が滲んでないかをチェックしてから玄関に向かった。 「佐助、ただいまー」 「お帰りちゃん。寒かったでしょ。暖かいの入れるから入って」 腕をとって部屋にいれる。整理された部屋にちゃんはなにも感づいた様子はなかった。 「あ、ね、ねぇ、佐助」 「ん?なぁに?」 甘党のちゃんなためにココアを入れるべく、ミルクを暖めていたら、コートとマフラーを外して冷えた体温のちゃんが俺様の背中にくっついてきた。 ちょ、俺様まだ心の準備がっ!! 「あのね、今日、バレンタイン、だよね」 「う、うん。そうだよ?」 せっかく内緒にしてたけど、これは催促の合図かな? 「だ、だからね?あの・・・これ・・・」 真っ赤な顔で差し出された赤い包みに俺様内心戦慄した。 ぶきっちょなラッピングはどう見ても市販品ではない。 ちゃんの手料理は3回食べたが、回を増すごとにすごかった。 「ま、まさか、俺様の為にチョコを・・・?」 問えばちゃんは恥ずかしそうに頷いた。かわいい、でも俺様にとっては死亡フラグでしかない。 「う、うれしいなぁー俺様大感激ぃ」 棒にならないようにしたが若干目が笑えない。どうしようと冷や汗流せば、ちゃんがこれまた可愛く笑った。 「あのね、慶次くんのおばさまが手伝ってくれたの!だから、本当に大丈夫だよ!」 正に地獄に仏! 料理上手で有名なまつさんと一緒に作ったならばバイオテロは免れただろう!神様ありがとう!! 「それに、ケーキとかクッキーは時間かかるから、普通のチョコ溶かしただけだからつまんないかも・・・」 「ううん。そんなことない。すごく嬉しいよちゃん。俺のためにがんばってくれたんでしょ?」 湯煎したチョコを固めただけならさらに大丈夫だね。 あー心配して損した! 「開けてもいい?」 「うん」 照れたようにはにかむちゃんが可愛くて思わず俺様の頬も緩んじゃう。 デレッデレの顔でラッピングをほどけば、ちゃんが嬉しそうに声をかける。 「佐助、最近疲れてたみたいだからスペシャルトッピングしたの」 「えー?なになに?嬉しいなぁ」 「まつさんがね、すごく美味しい野菜があるって。利家さんと慶次くんもびっくりするくらい美味しいんだって」 「んー?」 「だからね、」 滋養によさそうだから、そのチョコにその野菜のエキスを入れてみたの!! わぁーすごい幻聴! おかしいなぁ俺様の耳疲れてるのかも。 かわいいピンクの小箱を上げれば、中にはかわいいハート型のチョコレート!の真ん中にうっすら浮かぶ人面相・・・ ま、まさか 『いそい・いぐ・り買って・・・け!!』 いそいでいぐすり? 胃薬、だよな? これ見たことあるぞ。慶次が三日三晩昏倒した南蛮野菜っ・・・ 「佐助、バレンタイン、受け取ってね!」 ちゃんの笑顔と同時に、チョコ人面相が笑った気がした。 俺様はなんとか理性を総動員して、ちゃんに向かって満面で笑い返すしかない。 「ありがとうちゃん!すっごくおいしそうだよ!」 がんばれっ、俺様の胃袋っ・・・!!これに勝てばドルチェのちゃん。これに勝てばドルチェちゃんっ・・・!! 俺様は必死に呪文を繰り返し、ちゃんの視線に耐えかねてそのチョコレートを口に運ぶのだった。 |