1学年12クラスもあるマンモス校だがチームは3つ。 あみだくじで分けられるチームは龍、虎、獅子。毎年争いは激しく過激で優勝チームの内申点は跳ねあがる。 そして、やはり体育祭の目玉と言えばラストの選抜リレーに他ならないだろう。どんなに点差が開いていようとも、この競技一つで大どんでん返しが可能になるからだ。 優勢は虎、龍、獅子の順。ちなみにたちは龍チームだ。 「かすがちゃん!ちょっと!」 「なんだ?前田慶次」 選抜最終ランナーは虎からは佐助、龍からはかすが、獅子からは小太郎の校内きっての三速のデットレースになるらしい。 このメンツにはも楽しみで仕方がなかった。のだが。 「順番違わない?」 ラストランナーのはずの3人がすてにスタートラインに立っている。一周早い。 訳がわからないとスタート地点を見つめるに、物知り顔の政宗がの問いに答えた。 「上杉センコーが許可出した。ラストランナーは前田、真田、長曾我部だ。愛されてんな、センセー」 は?と思わずまの抜けた顔をするを置いて政宗はチームメイトの所に行ってしまい、問いただそうとしたがバトンパスの瞬間はすぐそこだった。 最初にバトンを受け取ったのは虎の佐助。次に龍のかすがが追い、小太郎はいまだスタートしていない。 『おー!虎組の猿飛は早いなぁー!あ、いや龍も負けては、おおお!獅子の風魔がすごい追い上げだぞまつー!!』 体育教師の前田利家の実況にはグラウンドを見つめる。 かすがは小太郎に追いつかれそうだ。しかし 「がんばってください、かすが」 龍チームの代表教師、上杉謙信の声援が飛ぶ。それはまさに鶴の一声。 かすがはきっと鋭く刮目すると、どこから力を絞り出したのか、恐ろしい程の速度で佐助を追い上げ距離を開けた。 「う、嘘だろ〜!?」 「謙信様のチームを負けさせるわけにはいかない!!!」 「・・・!?」 おおお!と上がる歓声がかすがの背を後押しする。 金色の髪が風になびき、夏の名残りが残る日差しを受けてきらきらと輝いていた。 かすがが握っていたのバトンは、吸い込まれる様にして慶次の右手に収まる。 「かすがちゃん!ナイスファイト!」 「負けたら許さんぞ!前田慶次っ!!」 「風魔ー!!佐助抜いちまえー!!」 「・・・っ!!」 「なんのっ!佐助!奮えよ!!」 「はいはいっとぉ・・・!」 飛び出す慶次を追うように、数メートル距離を開けて佐助と風魔が同時にバトンを渡す。 機動性は幸村が上だが、歩幅は元親の方が上だ。 このまま慶次が逃げ切るか、どちらかが追い上げるか。 風が吹く。日射しを包んだ夏の風。眩しい程のきらきら。歓声。世界を駆け巡る。 「いけ」 パーン!とシャトルの音が鳴り響き、白いゴールテープが宙を舞う。 元親と幸村は転がるように慶次の上に覆いかぶさった。 『優勝は龍チーム!龍チームの優勝だぞー!まつー!!慶次が優勝だー!!』 高らかに上がる優勝宣言。クラッカーやらの紙吹雪が舞いあがり、チームメイトによる胴上げまで開催される。 そうして悔しそうに雄たけびを上げる幸村と武田先生。3位の悔しさに泣き濡れる北条先生をなだめる風魔。上杉先生に褒められて卒倒しそうなかすが。 慶次は胴上げされながら、金の優勝杯を担ぎあげて世界の中心のように笑っていた。 ああ。眩しい。 *** 「先生ー」 閉会式も済み、片付けに取り掛かっていた所にちょっこりポニーテールが揺れる。まるで子猿の尻尾の様な動き。誰かわからないはずはない。 「なにかなー前田ー」 「へへ、これ!先生にあげる!」 ピカピカに磨かれた黄金の優勝杯。純金製だ。理事の織田の方針だが金持ちの道楽と言うか、恐ろしい財力だとは思う。 「ねーねー、先生。約束覚えてる!?」 「なんのことだー聞こえんぞ前田ぁー」 「大谷先生のまねしないでさぁ!」 「ほら無駄口たたいでないで早く片付けする。打ち上げあるんでしょ?」 むくれる慶次の顔はかわいい。しかし今は忙しいのだ。さっさと片付けしてきなさいと追い払いながら、は背を向けた慶次に向かって悪戯にほほ笑んだ。 「かっこよかったぞ、慶次」 大袈裟なまでに揺れた肩。ゆっくりと振り返る慶次の赤らんだ顔。耳まで真っ赤に染まった様子に、は満足げに笑ってその場を離れた。 「先生!も一回!もーいっかい!!」 「はやく片付けしろー」 ゆっくりと迫る秋の足音を聞きながら、夏の背を送る。 そして、春に植えられた恋の種が芽吹く頃。 彼女は彼の背を見つめていた。 |