「よぉー独眼竜!元気にしてたかぁ!?」 「Ha!久しいじゃねぇか、西海の鬼よぉ」 気さくに腕をぶつけ合い朗らかに笑う国主二人に小十郎はかすかに笑う。 歳に幾らかの差はあるが、この乱世にこうも気心の知れた友が居ることは喜ばしい。 幸村とは違う意味で政宗の世界に存在する元親を、小十郎は存外嫌いではなかった。 「おう、片倉さんも元気してたかぃ?こいつは土産だ」 「いいカジキマグロじゃねぇか。早速活造りにでもするか」 「はは!話がわかるねぇ!」 快活に笑う元親は部下から酒を受け取り、それに習い政宗も酒の用意を始めた。 小十郎はカジキを調理場まで運びに部屋を出る。 とたん政宗はくつくつと喉を鳴らして、尊大に踏ん反り返った。 「で?書状もなしに何の用だ?元親よぉ。いきなりの訪問はカジキでチャラにしてやるけど、mannerがなってねぇぜ?」 「おいおい、異国語なんでわかるわけねーだろ?俺はお前と違って頭良くねぇんだから」 からからと笑う元親は酷く機嫌がいい。 それを察した政宗は、大方宝の自慢でもしにきたのだろうと結論付けた。 「この間は木騎、その前は滅騎。で、今度は何だ?金銀財宝か?それとも新しい兵器か?あんまり調子に乗ってると財政破綻すんぜ?」 「はっ!今度の宝は今までの比じゃねぇぜ?ビビッて腰抜かすなよ?」 なるほどどうやら、政宗の予想は違わず当たったらしいが元親の焦らしぶりが引っかかる。 以前の兵器を見せたときの数倍は子供くさい笑みに、政宗の好奇心も擽られた。 元親はちょっと待ってろ、と一言いい部屋を出る。 数刻しないうちに戻ってきた元親は、白い布に包まれた何かを抱いていた。 「What is it?」 「だからわかんねぇって言ってんだろ。でもま、ほら、この布を取ってみろよ」 にやにやと笑う笑顔は腹立たしいほど期待に満ちている。 元親の腕に収まるそれは今までの宝に比べればずいぶん小さい。 まったく宝の正体が予想できない政宗は、元親に言われるがまま薄布を剥いだ。 「こいつぁ・・・」 するりと布が畳に落ちた。 政宗の腕に抱かれていたのは人間だった。 小さく小柄な、異国の女。 眩い金の髪に、ゆるく開かれた瞳には元親と揃いの青い目がはめ込まれていた。 空と海を混ぜた、果てのない蒼。 ひとつ瞳を瞬かせれば、長い金の睫毛がふると揺れる。 「どうだ?俺の最高の宝だぜ?」 「It is very beautiful・・・」 「だから異国語は」 「Thank you very much,I am very glad it to be said so.(ありがとうございます。そういわれてとても嬉しいです)」 はっと二人が息をのんだ。 そうして降り注がれるへの視線。 は何か失敗してしまったのかと小首をかしげながら、元親を見上げた。 「元親、なにかダメだった?」 「駄目っつぅか・・・お前」 「異国語が話せるのか」 「母さんが、異国の人だったから」 隻眼を驚きに染める政宗に、は頷きながら肯定する。 を抱きながら「驚いたぜ」と言う元親には申し訳なくなった。 「元親、ごめんね?黙ってて怒ってる?」 「怒るわけねぇだろ!ますます自慢の宝だぜ!!」 満面の笑みで髪を撫でられ、も嬉しさに破顔する。 そうして三人座布団に座りなおせば、を大層お気に召した政宗は身を乗り出してを正面から見据える。 この国で異国語を解する者は一握りも居ない。 自分が得意とするそれを共有できる相手を見つけたのが相当嬉しいのか、政宗は童子のように顔を輝かせ、嬉々としてに話しかける。 「How can English talk?(どれくらい異国語が話せる?」 「Generally I can talk,(大体は話せます)」 「It's interesting!Is the birth this country?(面白い!生まれはこの国か?)」 「Yes, is born; as for the breeding.I was taught the words by mother.(はい、生まれも育ちも。言葉は母に教わりました)」 「・・・お前らお願いだから俺にもわかる言葉で話してくんねぇ?」 しょげる元親に政宗と一緒にが笑う。 政宗と同じくらい、も異国後を話せて楽しそうだった。 彼女は海の外の世界が恋しいのだろうか? 知らぬはずの土地に愛郷の意が沸くのかと元親は心内で首をかしげ、そうしているうちに活造りを携えた小十郎が部屋に戻る。 「政宗様、外にまで声が聞こえていますよ」 「遅かったじゃねぇか小十郎!見てみろよ!こいつ異国語が話せるんだぜ!?」 まるで自分のもののようにを紹介する政宗に元親は苦笑を禁じえなかった、底抜けの笑顔には文句も霧散する。 もで突然紹介され、驚いたように目を瞬かせたがすぐに甘く微笑み頭を下げた。 「Nice to meet you.I am a mermaid of the west sea.(はじめまして。私は西海の人魚です)」 涼やかな声に、小十郎は声もなく驚き、その表情に政宗は悪戯を成功させた幼子のように口角を吊り上げたのだった。 「・・・驚いたな。政宗様以外に異国語を喋る奴がいるなんて」 「そうなの?でも、政宗すごく上手い。母さんみたい」 とろりと目尻を下げて微笑むさまは、酷く幸せそうで悲しかった。 戻らない憧憬を愛しむ。 小十郎と政宗にの生い立ちは話していない。 それでも、その足のない風体が全てを物語る。小十郎と政宗は言葉なくの笑顔を見ていた。 元親は大きな手でくしゃくしゃとの髪をかき乱すように撫ぜる。 俯いたは「へへ」と嬉しそうに声を零しながら、泣いた。 |