act,3








「ああもう最悪!!寝坊した!!」

準備していたドレスに袖を通して急いで化粧を始める。
車を飛ばしてぎりぎり間に合う位かという計算をしながら鏡に向かおうとすれば、の口に小さめのサンドイッチがほおりこまれた。

「はいはい焦らない焦らない」
「―――――。焦るよ!お姉ちゃんの式に遅刻なんてしたら私殺されちゃう!」

サンドイッチを飲み込んだはそうしてメイクポーチを広げる。
困ったように苦笑する佐助はの後ろに回り、寝癖が残ったままの髪にトリートメント剤を馴染ませて櫛を通し始めた。今日ほど佐助が美容師でよかったと思う日はない。まさか無料で当日セットをしてくれるとは。それにしたって寝坊はない。
はどんよりとした面持ちで眉を書いた。

「おねえさんそんなに怖い人じゃないでしょ。そういう言い方すると余計焦るからさ、ほら深呼吸ー」

ね?とウィンクを飛ばす佐助の言い様に、それもそうかもしれないと思いつつもやはりどうしたって時計から目を話すことは出来ない。
式が緊張して眠れなかったなんて、花嫁でもないのに。まるで遠足前夜の子供のようだと一人苦笑するしかなかった。

「でも佐助ごめんね?あたしの頭するのに仕事休んだんでしょ?」
「別に平気だぜ?うちは人数足りてるからね」
「でもさ、佐助人気じゃん」

都内の人気美容室で佐助は一二を争う腕前だ。整った顔立ちに軽快なトーク。彼女のも鼻高々だが正直いつか浮気されそうで怖い。そんなことは伝えたことはなかった。
しかしそんなの心情を悟ってか、ホットカーラーでの髪を巻きながら、佐助はのほほんと答えてみせたた。

「やぁだちゃん嫉妬してんのー?俺様ちゃんしか見えてないのにさ」

そういい悪戯にうなじにキスを落とされ、思わず怒鳴りそうになりながら後ろを振り返れば佐助は器用にの口にまたもサンドイッチをほおりこんだ。

「大人しくメイクして。じゃないと、結婚式にいけなくなるくらい襲っちゃうよ?」

にや、と持ち上げられた口角が嘘ではないことは付き合いの長さで見抜けてしまう。
急いで首を縦に振ったは顔を前に戻し、再びメイクに精を出す。
後ろの佐助は楽しそうに鼻歌を歌い、ワックスをなじませ毛先を整えてくれた。

「でも、いいなー結婚式。俺まだ知り合いのにも出たことないんだ」
「ごめんね、佐助も一緒に連れてって上げられたらよかったんだけど」
ちゃんが謝ることないよ。親族と親しい友人だけでやるなら俺様行ってもしょうがないじゃん?」
「うーん、そうだけどさぁ・・・」


髪までしてもらってご祝儀まで受け取ったのだ。なんだか申し訳ないだが佐助は気にしないで、とへらへら笑った。

「髪はもう出来るけどメイクは?」
「後マスカラだけ」
「じゃあ車エンジンかけてくるから、用意できたら鍵閉めて降りといて」
「はーい!」

巻いた紙を手早くアップした佐助はテーブルの上の車のキーを持って先に部屋を出る。
ハンドバックとシルバーパールのネックレスをつけて全身鏡の前で一回転。
惚れ惚れするほどのヘアスタイルに、やはり自慢の彼氏だとは一つ微笑み部屋を出た。

「佐助お待たせ。道わかる?」
「ばっちり。まかせてちょーだい」
「頼りにしてるよ、運転手さん」

そうして車が走り出す。
予定時刻ぎりぎりだがどうにか遅刻は間逃れそうだった。
会場の玄関で両親の姿を見つけ、は佐助に礼をいい車を降りる。運転席まで回りもう一度礼を述べようとしたとき、佐助がにんまりと笑った。

「せめて俺様との式の時は、寝坊しないように気をつけてね?」
「なっ・・・!」
「ご両親にも、そのうち挨拶したいからさ、よろしく言っといてよ」

思わず赤くなってしまった頬を押さえれば、佐助は悪戯が成功したといわんばかりに肩を揺らした。


「義姉さんにも、おめでとうって伝えてね」

おねえさん、と強調された部分に固まるを置いて佐助はそれじゃあまったねー!と走り出す。車を見送りながら、は両親に真っ赤な顔の言い訳を考えねばならなかった。






悪戯王子の







先制攻撃