act,8







私は。秀吉様の子。
けれど私には翼があって、秀吉様たちにはない。
生まれたとら翼がある私は、外に出してはもらえなかった。
外は危ないんだよ、と半兵衛様が教えてくれて、私はいつも部屋の中。
けどあまり苦ではなかった。
家にはいつも秀吉様と半兵衛様がいたし、三成さんや大谷さんが遊びに来てくれるからだ。

私は三成さんと一番仲がいい。
三成さんははじめて会った時からいつも優しかったし、よく私の面倒を見てくれた。
おかげで秀吉様と呼ぶ癖もすっかり移ってしまった。
外や学校の話をしてくれたし、こっそりお菓子を分けてくれた。
三成さんはあまり食べないから、私が代わりにたくさん食べた。
半兵衛様と秀吉様に見つかったときは、怒らずに食いしん坊だねと笑われてしまった。
私は優しい二人も好き。
でも、たぶん一番は三成さんだ。
三成さんはいつも私に綺麗だと言って翼に触れる。
その指先がとても丁寧で、優しくて、暖かくて。
私は三成さんが大好きだ。

最近の三成さんはいつも疲れている。
将来秀吉様の会社に入るためすごく勉強してて、いつも私がいる部屋で大谷さんと教科書と睨めっこしている。
一度見せてもらったけど全然わからなかった。
半兵衛様が今年は受験だから、と私に教えてくれて、学校って大変なんだねと三成さんに言うと、三成さんは苦でもなさそうに私に相槌を打った。
三成さんは秀吉様と半兵衛様のお役に立つのが将来の夢だから。
特に秀吉様への傾倒っぷりは半兵衛様に継ぐ。
三成さんは本当に秀吉様が大好きで、ちょっと妬けちゃうな。

そんな三成さんは今日も秀吉様のお家でお勉強を頑張っていた。
今日は大谷さんは官兵衛さんと病院。三成さんは秀吉様と半兵衛様が帰るまで私とふたり。
しばらく私と話した後勉強を始めたけど、疲れていたみたいでいつの間にかテーブルで眠り込んでしまっていた。
春の麗らかな天気は誰だって眠気に負けてしまう。
それは生真面目な三成さんも同じみたい。
私もついさっきまで眠っちゃってたから。

「三成さん、三成さん」

私は三成さんの側で名前を呼ぶ。
日の光にあまり当たらない三成さんの肌は少し白すぎる。
私はそっと三成さんの頬に触れてみた。あたたかい。
三成さんの肌は白く、冷たい印象を与えるけどそんなことはない。私と一緒。
白い羽は血が通って暖かい。

そして三成さんは起きる様子もない。
困ったな。
風邪を引いてしまうかもしれない。
なにか羽織るものを持って来たいけど、私は部屋からでてはいけないな約束だった。
秀吉様の家には会社の人も来る。
危ないと言ったのは三成さんだった。
約束を破るときっと叱られてしまう。
お菓子も、もう貰えないかもしれない。
けどこのままじゃ三成さんが風邪を引いてしまう。
困ったな、困ったな。
私はしばらく三成さんの回りをうろうろした後、仕方がなく三成さんの隣に座った。
あ、三成さん睫毛短い。
そんな新しい発見に喉が震える。
三成さんの喉も小さく震えた。
起きるかな?と顔を覗き込むけど、やっぱり起きない。

・・・」

ぽつりと零れた寝言。
私の名前。私はたまらなく恥ずかしくなって、きっと今なら顔が真っ赤っかに違いない。
でも少しだけ嫉妬。
夢の中の私は私じゃないでしょ?

「三成さん、私はここだよ」


そう囁いて私は三成さんに擦り寄る。
体を目一杯押し付けで、好きだよってアピール。
三成さんの瞼がくすぐったそうに震えた。
あ、三成さん笑ってる。
私も小さく笑って一緒に目を閉じた。
体に添えられた三成さんの手が暖かくて気持ちいい。
私と三成さんは、春の陽気に包まれて、すっかり眠りに落ちてしまうのだ。







「帰ったぞ」
「秀吉、静かに」

しー、と人差し指で合図する半兵衛に秀吉は何事かと首をかしげた。
半兵衛の指先はそっと部屋の中に向けられる。
その先を視線で追い、秀吉はたまらず相好を崩した。

「これは愛らしい」
「本当、は三成くんが大好きだね」

テーブルにつっぷして眠る三成の顔のとなりに、小さく丸い白が見える。
柔らかい羽はすっかり身を包み、三成と熱を分け合うようにぴったりて寄り添う小鳥がいた。
そしてその小鳥を包むように、三成の腕がに添えられている。

「三成も、が随分大事なのだな」
「ふふ、妬けるかい?」
「少し、な」

忍び笑いを溢す秀吉と半兵衛を余所に、と三成は互い身を寄せ合い夢の中。

彼女は。秀吉のペットだ。
そして彼女は三成の可愛い小鳥






ひだまりの詩