act,7 はじめの主人はきらびやかな衣装で私を飾るのが好きだった。 美しいドレス、眩い装飾品、そして金の鎖でいつも私を縛り上げた。 二人目の主人は私を辱しめるのが好きだった。 裸にされ、見世物にされ、高い塔に私を銀の鎖で繋いだ。 三人目の主人は私をいたぶるのが好きだった。 大きな鳥籠の中で、飢えた獣に私を追わせた。私は空中を逃げたながらも銅の鎖に捕らわれていた。 四人目の主人は変わった人だった。 暖かい食事、寝床、綺麗な服、望むものはなんでも与えると言い、実際際限なく与え、そして私の足に鎖を巻くことはなかった。 主人は領主と呼ばれて、毎日机に向かっている。 今までの主人たちが働くところは見たことがなかったので新鮮だった。 たくさんの使用人、兵、部下がいたけれども主人には家族と親い友人が居なかった。 主人は孤独ではなかったが、一人だった。 私は知恵がなく、一体主人がなんの為に私を買ったのかわからなかった。 主人は私になにもしなかった。暴力も乱暴も理不尽もなく、ただ置いておくだけだった。 鎖がなかったので私は今までで一番自由に空を飛ぶことができたが、主人の建物から離れなかった。 逃げないのか?と主人が問いかけたとき、私はなぜですか?と聞き返したことがある。 その時、私ははじめて主人の笑顔を見た気がした。 私は生まれてずっと篭の鳥。 主人の腕から逃れることなど思いもしなかったのだ。 主人は使用人や兵隊には厳しかったが、私には怒鳴ったり手を上げたりすることはなかった。 そんな主人ははじめてだったというと、主人は私の頭を撫でた。 今にも泣いてしまいそうな主人は、微かな声ですまぬ、と私に謝った。 私は何故主人が謝ったのかまだわからないでいる。 もしかすると主人はふたりいるのかもしれない。 優しい主人と恐い主人。 優しい主人は私の前だけに現れ、恐い主人は使用人や兵の前だけに現れるのかもしれない。 私は四人目の主人と一番長く暮らした。 主人は私を売らなかったし誰にも譲ったりはしなかった。 主人は私を痛め付けたりしないので、私は主人が日に日に好きになった。 四人目の主人にしてはじめての感情だった。 しかし、やはり主人と私の生活は長く続かない。 今思えば私は不幸を呼ぶ鳥だったのかも知れない。 一人目の主人は強盗に刺殺された。 二人目の主人は貴族に毒殺された。 三人目の主人は狩人に射殺された。 そしていま、四人目の主人は青年に腹を刺されていた。 銀の髪の青年は主人を罵倒して去っていく、俺たちは圧政から解放されるんだ、と叫んでいた。 私は主人の側に寄る。 私を縛る鎖はない。 私ははじめて息絶えようとする主人の側にいた。 「元就さま・・・」 ゆっくりと瞼を開かれた主人は眩しそうに目を細める。 「」 顔色は紙のように白く、息は熱を帯びて浅い。 「引き出しに、いくらか金がある。それを持ち、逃げよ」 「逃げる?どこにいけばいいですか?」 「好きなところよ、の、好きな所に飛ぶがよい」 好きな所。 私が好きな場所は元就様の庭と、元就様の寝室と、元就様と行った海だった。 「元就さまは?」 問いかけに元就様は緩く首を降る。床一面赤く染まっていた。 私は生まれてずっと篭の鳥。 自分で考えることができなかった。 私はもので、主人の物だ。 「元就さまは、どこに行きたいですか?」 私の声に元就様は今までで見た一番優しい笑みを見せてくれた。 「窓辺へ、我は、日輪が見たい」 私は返事をして、元就様の体を引き摺って窓辺へ寄った。 日は高く、しかし緩やかに沈みいこうとしている。 「日輪よ・・・」 弱く、消え入りそうな主人の声。 元就様は私をとても大切にしてくれた。 そして、太陽を愛していた。 「行きましょう」 何から逃げるか知らないし、は主人以外何も知らないのだ。 「あの日輪まで」 私は翼を広げ、元就様に抱きついて、高いテラスから飛び立った。 眼下に見える人たちは、私たちを指差し石を投げる。 届きはしない。 私はぐんぐん高度をあげて、元就様と一緒に日輪の国へ行くのだから。
御主人様と私 |