act,1 帰宅するとがソファに寝そべっていた。 身を丸めて唸っている。?と呼びながら家に上がると、顔を挙げたの瞳は泣き濡れて真っ赤になっていた。 「おいおいどうした?生理か?」 「ばか、違う・・・なんか、背中痛い」 「背中?どっかぶつけたのか?」 答えるのも億劫なのか、はクッションを抱き顔を押し付けながら左右に降る。 頬に色はなく青を通り越して陶器のように白い。指の背で頬を撫でれば体温も随分低かった。 「なんか暖かいの飲むか?」 「ん・・・いい、それより背中さすって」 「OK」 服越しに背中を何度も撫でる。 政宗の手に合わせては息を吐くが、震える肺と心臓の鼓動ばかり伝わって痛々しい。 「少しは楽か?」 「んー・・・直にお願い」 言うや否やはさっさと服を脱ぎ、腕は抜かずに衣類を前に寄せる。 色気のない態度だが、相当辛いだろう事が伺えた。 「ブラも取って」 「はいはい」 これが夜なら嬉しいのだが。 政宗は苦笑を溢しつつブラのホックを外し、解き放たれたの背に手を当てた。 「すこし骨の辺りが張ってねぇか?」 「わかんない・・・あーきもちい」 ゆっくり、掌を押し付けるように背を撫でる。すべらかなの背は傷ひとつない。 柔らかい肌にすこし欲望が首をもたげたが自制する。 の呼吸は短く浅かった。 「湿布貼るか?」 「んーん、政宗の手がいい・・・」 まったく可愛いことを言ってくれる。 政宗は緩く笑い、それからも暫くの背を撫で続けた。 「政宗、政宗」 はたと目を開く。 いつのまにか眠ってしまっていたのか、は身を起こし政宗の肩を揺すっていたようだ。 「背中はもう痛くないのか?」 「うん、見て」 言葉と同時に影が広がる。 窓から射す逆光に、の翼がキラキラと光っていた。 「私、羽が生えたみたい!」 白い羽は大きく広い。 華奢な付け根だが力強く羽ばたくの羽に政宗は感嘆の息を吐くしかできなかった。 「政宗、飛ぼう!」 呆然とする政宗の手を取りはベランダに出る。 マンションの5階。落ちれば命は勿論ない。 だが政宗もも、何故だか何も恐ろしくはなかった。 手すりに揃って足をかけ、が政宗の手を握ったまま空に向かう。 無重力にふわり、翼が羽ばたき政宗とは抱き合って笑った。 快晴の空が、遠い。 「いっ・・・!!」 突然、は身を捩り政宗に抱きつく。太陽に背を向けた羽の付け根が赤く爛れていた。 「!」 政宗が呼ぶ。 は痛みに目を閉じた。 互い抱き締めた指先が燃えるように熱い。 くるくる、くるくる ふたりは風と重力に揉まれながら、幾千の羽を散らして地上に吸い込まれていった。 「政宗、」 恐らく、ほぼ同時に目が覚めたのか。 ドンッ!という鈍い衝撃に覚醒した心臓はバクバクと煩く、背筋に嫌な汗が残っていた。 の顔色は変わらず白い。政宗も負けずに青いだろう。 「背中、痛くないか?」 カラカラに乾いた喉がひきつる。 しゃがれた声には頷き、それから大粒の涙の雨を降らせた。 「ごめんね、政宗。ごめんね・・・私、天使じゃなかったみたい。飛べなかった。ごめんね」 は、政宗と同じ夢を見たのだろうか。 あの夢が何を意味するのか政宗にはわからなかったが、政宗はただ静かにを抱き締めた。 「馬鹿、なんで謝るんだよ。天使じゃなくたって、俺はが好きだぜ」 そう笑いながら政宗はの肩胛骨に触れる。 まだ少し、腫れているような気がして恐ろしかった。 そんな夢を忘れるように、政宗は甘くの背を撫でた。
ふたりワルツ |