act,4








「おい。気ぃつけろよ」
「あ、ご。ごめんなさい!」


スーツの小十郎の隣で躓きかけたは急いで謝罪を述べた。
足元の小さな段差に躓いてしまったらしい。ごった返す人波の合間と動きを制限する浴衣の帯が息苦しい。いつもの見慣れた私服ではなく、慣れない浴衣と下駄に苦労するは内心泣きそうで仕方がなかった。
身の丈に合わないお洒落だとは重々承知しているが、せっかくの夏祭りなのだ。大人の小十郎に子供ではないと知らしめてやりたかったのに、これではまったくぜんぜん駄目だ。
どんどん落ち込んでいく気分と一緒に下駄の鼻緒がすれて痛い。昔の人は毎日はいていたのかと思うとすごく尊敬ができたが、これではただの現実逃避だ。
何とか大人っぽさをアピールしようとして髪もしっとり纏めて浴衣の柄も派手すぎず子供っぽすぎないのを選んだんだ。どうしてうまくいかないんだろうと思うと足の痛みとの相乗効果で少し涙腺が潤んだ。


「おい」
「はい!あ、え?」


ぐい、と腕を引かれたかと思うと屋台と屋台の間の脇から連れられ、人の波から反れて鳥居の下にたどり着く。も、もしかしてキスかなぁ!?と心臓が跳ね上がったを他所に、小十郎はさっさと身を屈めての足元を検分していた。


「え?こ、小十郎さん?」
「・・・馬鹿野郎が」
「ひぇ!す、すいません・・・」


何故叱られたのか判らないが、小十郎の低音は本当に怖い。別の意味で出てきそうになる涙を必死に耐えながら謝るの足元で、低く重たいため息がこぼれたのを聞こえる。いい加減愛想を付かされたのかもしれない。だって自分がここまでドンくさく手のかかる女だとは思わなかったのだ。
死にたくなるほど落ち込む気分に追い討ちをかけるように、小十郎の低音ボイスがもう一度の名を呼んだ。


「足、痛てえなら何で早く言わねぇんだ」
「え、う、だ、だって」


立ち上がった小十郎がを見下ろす。眉間に寄ったしわが苛立ちを露にしていては泣き出しそうになりながら自分のつま先を見下ろした。まともに顔も見れやしない。
叱られる。迷惑をかけてしまった。何が大人っぽくだ。いつまでたっても小十郎を困らせることしかできない自分には失望するしかない。


「い、痛く、ないもん」
「・・・・馬鹿野郎が」


吐いて出た出任せをあざ笑うように指の付け根がじりじり痛んだ。
本日二度目の暴言には涙を耐えるためにぎゅっと目を瞑る。目じりや睫に感じる涙の感触。次いで感じたのは、遠慮がちに頭に載せられた手のひらの感触だった。


「お前だけの体じゃねえんだぞ。もっと大事にしやがれ」
「ご、ごめんなさいっ」


反射的に謝るに小十郎は苦笑する。どうにも意味が伝わっていないらしい上に、は涙を撃退するために瞼を閉ざしたままだ。
小十郎は頭に乗せた手のひらを滑らせ、頬のラインを沿って顎を捉える。が抵抗を始める前に掠めるように唇を奪えば、やっと気付いたが目を見開いた。
遠くの店の行燈がの輪郭をぼんやりを浮き立たせる。涙に濡れた瞳が、本人の意思に沿わずして酷く煽情的だった。


「お前は俺のもんなんだから、傷一つつけたくねぇんだよ」


妖しく笑う小十郎に、の唇が何か囁こうとする。しかし、そんなものは判っているといわんばかりに、小十郎の唇が再びの唇を奪い去った。










擦れた鼻緒の


所有印