act,2 「次綿アメ買おうよ!」 「うむ!無論大きいサイズだな!?」 二人きゃっきゃとはしゃぎながら人垣を縫うように進む。今日は母親のようなお目付け役の佐助がいないのだから羽目を外さずしてなんとすべきか。屋台を梯子すると幸村は次の獲物を目指して疾く駆けた。 「おじさん!綿アメ二つ!」 「袋は無用でござる!」 「あいよ!」 手馴れた屋台の主がくるくると綿アメを巻いてくれる。鼻をくすぐる甘ったるい匂いに二人はだらしなく口の端を緩めた。 「おまちどうさん!」 「ありがとう!」 「かたじけない!」 次の客の為にすぐ脇に捌ける。ふわふわと甘い輪郭にの笑みはより綻び、幸村はサンタからのプレゼントを得た少年のように瞳を輝かした。 揃っていただきます、と丁寧に手を合わせて一口齧る。 は指先でつまみ、幸村は豪快にそのままいただく。ふわふわと頼りない感触は口の中で溶けて滲み濃い甘さに二人は興奮してお互い視線をぶつける。感想はそれで十分で、後は会話もそこそこに綿アメを食べた。出来立ての一番おいしい瞬間をきれいに平らげる様は、どこからどう見ても幼い子供のそれで、お目付け役のような佐助がいれば「あんたらいくつだよ」と苦笑を零す程だっただろう。 「おいしかったぁ」 「・・・」 「あれ?幸村どうしたの」 「いまいち足らぬ」 「あー・・・」 帰宅部のとは違い、運動部で今をときめく健全な高校生が綿アメ程度で腹が膨れるはずはないだろう。それを抜きにしても幸村は極度の甘党だ。そこらの女子のさらに上を階段飛ばしで行くほどだ。綿アメひとつでは満足できないのだ。 綿アメの割り箸のごみをゴミ箱へと捨てながら、は首を巡らし幸村の腹を満たすべく次の屋台を指差した。 「あ!向こうにクレープ屋さん出てるからいこっか」 「うむ、だがその前に」 見つけた屋台を左手で指せば、す、と幸村に右手を捕らわれる。ほとんど向かい合った状態から右手が持ち上げられて、何なのだろうとは目を丸くした幸村を見つめた。 迷子になるなと言われるのかと思い、はそこまで子供じゃないと口の中に文句を用意する。ほとんど反射で返せばきっと驚くだろうと、は内心意地悪な笑みを浮かべて幸村の言葉を待つ。 「すこし、頂く」 「あ」 しかし幸村の行動は予想とはまったく別で、本当にあっと言う間にの指先は幸村の口内に吸い込まれる。熱い舌が触れて、は思わず肩を振るわせた。 「さぁ殿!クレープ屋に行きましょうぞ!」 「・・・・は、はれんちめっ!」 が綿アメをちぎって食べたのを見ていたからだろうが、さすがにこれは天然では済まされない。顔を赤くしたまま悔しそうに言い放つに向かって、幸村は悠々と笑顔を見せてその腕を引いて歩き出すのだった。 |