act,1








「祭りって言えば林檎アメだよね!!」
「とかいいながらその前になに食ったか言ってみろよおら」


こん、と軽く頭をこずかれ痛いよ!とは唸る。確かに思い返せばいろいろ食べたかもしれないが今は目先のことですぐに頭がいっぱいになってしまう。政宗の小言はすぐさまきれいさっぱり忘れ去り、は林檎アメに視線を戻した。うっかり落としていないことを確認するともう政宗のことは視界から追い出し笑顔でビニールを取り外しにかかった。


「わー!」
「ガキかよ」


うんざり、といった風に政宗が呆れてため息を零すがは気にする素振りも見せない。赤く輝く宝石のようなアメには釘付け。誘われるまま下で舐め上げれば口いっぱいに広がる濃い甘み。


「しあわせぇ」


とろんとした瞳で恍惚と微笑むははっきり言って情事の時のそれの倍を行く。忌々しげに林檎アメを睨むが、所詮は食い物。勝敗など付くはずがないしはそんなことにも気付かず林檎アメをせっせと舐めている。
その様がかわいいと思うあたり自分も相当末期だと感じながら、政宗は自分も林檎アメのビニールを破った。
甘いものが得意とは言いがたいが、年に一度食べるか食べない程度だ。せっかくの祭りだしと自分を納得させて、ゴミとなったビニールを近くの設置されたゴミ箱にほおりこんだ。


「あ!」


あ?と振り返った先でがよろめいてた。思わずさっと腕を伸ばして細腕を掴むが、の悲鳴は止まない。あー!と長引く悲鳴に何事かと視線の先を追えば、転げ落ちた林檎アメが人通りに蹴られ蹴られて雑踏に消えるところだった。


「酷いあの人ぶつかったのに謝らなかったって言うかあたしの林檎アメ蹴られたよ政宗!!弁償もんじゃないのかなぁていうか酷いと思わない!?」
「・・・Calm down,


腕を離せば今にも殴りに行きそうだったのでとりあえず宥める。後姿からも漂う気配はどうにも堅気には見えない。無謀にもそんな手合に突っかかろうとするのは止めて欲しい。小十郎に慣れすぎだと政宗は暗澹たる気持ちでため息をつくのだった。しかし気は静まらないはスーツ男の背を睨みつけながら今にも文句を叫びだしそうな顔をしている。やれやれと肩をすくめた政宗は、体勢を立て直したに向かって己の林檎アメを差し出したのだった。


「これやるから」
「え、」


いいの?とが問いかけ政宗はそれに無言で頷く。もともと甘いものは好きじゃない。鬱陶しいほどに騒がしいこの祭りのテンションに乗せられただけだ。それでも


「ありがとう政宗!」


ハートが飛び出しそうな笑顔にくらり。眩しいほどのの笑顔から覗く林檎アメで赤くなった舌が官能的に政宗を誘う。祭りも悪くないと笑いながら、政宗は「転ぶなよ」と低く囁き指先を絡めるのだった。









林檎アメの誘惑