私は元就様の駒だ。 だから元就様が往け、と命令を下されたならば戦地だろうが死地だろうが、鬼の前にだろうが向かって往ける。 元就様は私の日輪だ。 眩しく、神々しく、美しい空の上の存在なのだ。 元就様は絶対だ。 あの方の先に敗北などない。 だからいくら戦局が不利であろうが、私は毛利の敗けを確信したことはなかった。 この戦もそうだ。 多くの同胞が倒れ伏すのを見送りながら、私は剣で肉を薙払う。 元就様が「守れ」と仰られた。 だから守る。 それ意外他ならない。 ひとつ、ふたつ。 あたりを飾るもの言わぬ肉が増えて行く。 そうして私は剣を振り続ける。 何故なら元就様が守れと仰られたからだ。 「起きよ」 勝ち鬨を聞いたあと、体力の限界に私は身を投げて血みどろの土に横たわった。 雲に陰る日輪でも射し降る日差しは強い。 瞼を落とし生き残った仲間達の荒い呼吸を聞きながら、私も静かに呼吸を繰り返していた。 そこに凛と澄んだ声は、雪を被った山水のような冷たさを持って私の上へとふりふる。 注がれた命の水に私は直ぐ様、身を起こして片膝をついた。 「元就様、」 「我らの勝ちぞ」 しん、と静まる戦場の跡。 そこかしこに弓や刀が突き刺さっている。 元就様はそれらをみやりながら、小さく口を開かれた。 「よくやった」 それだけで、戦の余韻は吹き飛び私の思考は七色に染まる。 勿体無きお言葉を、 そう言い勢いよく頭を下げた。 嗚呼、焼け焦げてしまいそうだ! 私の気も知らず元就様の白い指先が私の頬に当てられ、思わず声も裏返る。 「元就様!」 素っ頓狂に上がる私の声を、元就様は煩い、と一蹴する。 元人間だった肉や何やらが、元就様の美しい指に附着すると思うと、申し訳なさに切腹したくなった。 「醜い顔ぞ」 「…申し訳ございません」 一気に崖から突き落とされたような感覚に涙腺が潤む。 しかし元就様は無理矢理私の顎を掴みあげ、視線を強制的に絡ませた。 「も、となり、様?」 ぐいぐいと袖で顔を拭かれる。 上等な絹が汚れます。 そう進言できないまま私は大人しく元就様のされるがままになる。 「よ」 「はい」 「貴様は我にのみ汚されておればよい。下衆共の血に汚れることなど許さぬ。分かったか?」 「は、はい?」 言葉尻があがった曖昧な返事。 だって私は元就様の駒で、駒は駒らしく戦場に。 それに元就様の役に立つには前線で剣を振るうことが一番。 血に汚れるなとは少し難しい。 そんな事を考えていれば、元就様は大きくため息をおつきになり、私の腕を引いて無理矢理立たせた。 「はやく帰るぞ。その汚い成りをなんとかせねば、接吻ひとつ出来ぬではないか」 え!? 上がった私の声は相変わらず煩い、と一蹴され、私は元就様に腕を引かれるまま戦場を後にしたのだった。 |