ぶ




   く



  ぶ









真っ青だ。
海と空が混じった色。
あ、実際混じってるじゃん。
ボコボコと気泡が舞い上がっていく。
光が指す水中は酷く美しい。
腕を伸ばす。
遠ざかっていく海面。
あれ?沈んでる。

ぶくぶく

そうだ。
甲冑きてるからだ。
他所より軽装だけどさ、やっぱり重いもんなぁ
沈んでいく。

光が綺麗だなぁ・・・

最後のあぶくが浮かんでいく。
空気はもうない。
息苦しさに瞼を閉じた。

もう、駄目だ。








バチン!!
と右頬に走った鋭い痛みに何事かと目をかっぴらく。
次いで肺いっぱいに満たされる空気に私は大きく積を繰り返した。

「バッカ野郎!!何してんだ!?」
「も、と、ちか・・・さ、ま・・・?」

こほこほ、と収まり始めた積の合間に名を呼べば、海色の碧眼が怒っていた。

「死ぬ気か!?」
「死にたくないです・・・」
「だったら!!」
「でも・・・もう戦も嫌なんです」

視線を落とす。
穏やかな海面。
その向こうの岸は血の池地獄だ。

元親様は「あー!」と苛立った声でがしがしと頭を掻いて、私を抱いたまま足の着く浅瀬までたどり着いた。

「なら、結納あげちまうか」
「・・・は?」

足元の海水がパチャンと跳ねる。
元親様は私を地面に下ろしたあと、腰をしっかり抱いて碇槍を頭上に振り上げた。

「野郎ども!!この戦が終わったら俺との結納あげるぜぇ!!」

その言葉に「やりましたねアニキー!」とか「おめでとよ!ー」とか声が上がる。(ちょ!いま戦の最中だよね!?)
でもあたしの気持ちは嬉しいやら悲しいやら。
どうした?って覗き込んでくる元親様の顔は邪気なんて一切なかったので殴る事もできなかった。

「どうしたもこうしたもないですよ!なんて情緒のない告白ですか!?わ、私だって女なんです!こんな血みどろの戦のど真ん中じゃなくて、もっと花を愛でたりしてる最中にいわれてみたい言葉だったんですよ!?」

いくらなんでも酷すぎる!
わっ!と顔を覆って泣きまね。
むしろ泣きそう。



顔を覆っていた両手首をがっちり掴まれて無理矢理視線が会わせられる。
さっきまでの笑顔と対照的なほど真面目な顔をした元親様。
そのまま勢いで口付けられて、角度を変えられて何度も深い接吻を受けた。
甘い快楽にくらくらする。
ふらつく足元は頼りなく、元親様の太い腕に支えられながらやっとの状態で立っていた私は、顔を真っ赤にして涙目で元親様を睨みつけてやった。

「なっ、にを!!」
「ばぁか。早くおめーを抱きたいんだよ。これでも我慢した方だぜ?」


にやり、と上がった口角がいやらしい。
またしても顔が沸騰しそうなほど赤くなったのが判った。
くやしい!

「さっさと帰ってちゃんとを抱きしめてぇんだよ。だから死ぬんじゃねぇぞ?」

髪を撫でられて、最後にとばかりに触れ合うだけの接吻が唇に乗せられた。

「行くぜ!!野郎ども!!」

高らかに上がる兄貴コール。
巨大な碇の形をした槍を振り回す元親様が戦の渦中へと飛び込んでいく。
国主がそんな策もない行動をしてどうするんですか!!

私は仕方なく、元親様の後を追いながら、すれ違いざまの敵兵を切り倒していった。

「元親様!!帰ったらもう一度ちゃんと求婚の言葉を聞かせてくださいね!!」