金曜深夜手前。 今日も今日とて残業です。 上司は鬼畜!後輩は無能? 勘弁してよと嘆いたあたしの唯一の慰めは金曜の夜。 同僚と飲んで帰ることもあるけどあたしって結構一人が好き。 会社の近くの人気のケーキ屋さんでケーキを一つ。 それから近くのコンビニで飲み物を買う。 これがあたしの最近の癒し。 「150円になりまーす」 ぴ、と電子音。 選んだのはいつもの午後の紅茶、ミルクティー。 財布を開くが小銭がない。 「ごめんねー」と言いながら千円を出せば、「850円のお返しになります」とマニュアルとおりのセリフが一つ。 「あ、」 店員さんの声にふと顔を上げればちゃりん、と小銭の音。 すみません、と小さな声の後、レシートと小銭がしっかりと渡された。 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」 店員さんのにっこり笑顔。 今時マクドナルドでもやらなさそうなスマイル0円!しかもイケメン!! おもわず「ありがと」とこっちも満面の笑顔を返してしまった。 うわああ!絶対変な女!とか思われたよ! 急に恥ずかしくなって小銭とレシートを財布に突っ込んで逃げるようにコンビニを出る。 後姿にもう一度「ありがとうございましたー」と声をかけられた。 柔らかい声だった。 うちに着いて誰も居ないのにただいまーなんていってパンプスを脱ぐ。 一週間ご苦労様!あたし!! そのままストッキングを脱いで洗濯籠に突っ込んで、スーツのジャケットを脱いでソファに投げた。 お気に入りの細身のグラスにに氷をつめて、ミルクティーを注ぐ。 シャツのボタンを3つ目まではずして、ベランダの窓を開けて部屋の空気を入れ替え深呼吸。 相変わらず空気はまずい。 キッチンからフォークを取ってきて、ケーキの箱をご開帳。 今日はシックに苺のショート。 甘さ控えめのクリームにふわふわのスポンジ。 中にはたっぷりのイチゴペースト。 スィーツは人生の宝だわ!! ゆっくりとフォークで一口すくう。 型崩れしない絶品のケーキを口に運べば、想像以上の甘さに思わず表情も蕩けた。 「おいし・・・」 やっぱり金曜の夜のケーキは止めらんないわ。 うっとりとケーキをついばみながら、財布を漁る。 レシートほっとくと束になるから嫌なのに。 そうして引き抜いたレシートの合間から一枚の紙がフローリングの上に滑り落ちた。 「ん?」 あたしは行儀悪くフォークを口に加えたまま紙を拾う。 二つ折りのそれはルーズリーフの切れ端だ。 こんなの入れてたっけ? 何気なく開いたルーズリーフ。 あたしは思わずくわえていたフォークを落とした。 『あなたが好きです。 コンビニ店員 猿飛佐助より』 さっきのコンビニのレシートのレジ番にも猿飛、と印字されている。 脳内に、あのオレンジに近い髪をした青年の笑顔が再生された。 |