「皆の者。防衛線を展開せよ」

元就様の一言で、武器を持つ私達は一斉に陣を敷く。
敵は長曾我部元親。
この神の住む厳島を狙う海賊。

「往け!!」

前を指し示す輪刀に従い、私は愛刀を抜き足を早めた。

洗礼された毛利軍の水軍は海賊風情には引けをとらない。
各々武器を振り、長曾我部軍の進行を押しとどめている。

「長曾我部元親っ!!」

巨大な碇槍を悠々と振り回す隻眼の男。
は憎々しげに、呻く様に声を絞り出し刀を振るった。

「覚悟っ!!」

ギンッ!!と金属同士がぶつかる甲高い悲鳴が響く。
渾身の一振りは容易く防がれ、挙句にはこちらの腕が力負けして痺れている。
思わず舌打ちをすれば、元親は楽しそうに隻眼を細めた。

「よぉ、。相変わらず俺につっこんでくるとはいい度胸だぜ」
「黙れ!!元就様の厳島を侵す野蛮人め!!消え失せろ!!」
「つれねぇなぁ?俺はこんなにもお前を想ってんのに、よ!!」

なんの躊躇いもなく横に振られた碇槍を何とか防ぐものの、元親の巨躯による力は防ぎきる事はできず、の軽い身体はいとも簡単に吹き飛んだ。

・・・。お前なんでそんな戦える?女の身で俺と対峙できる?」
「知れたこと。全ては元就様のため」
「っ!!あいつは!!お前を駒のうちのひとつとしか見てねぇ。なんの躊躇いもなくお前を最前線に置く男だぞ!?」
「構わない。例え駒であれ、元就様のお役に立てるのならばな!!」

隙の生まれた元親にが斬りかかる。
しかし防がれる事を予期していたは咄嗟に足払いをかけ、刃を向けた。

「元就様にとって長曾我部、貴様は邪魔なんだ。御首、頂戴する!!」
「ちっ!!」

の刃が元親の首を掻き切る前に、元親は右足を強く振り上げの腹部に重い一撃を入れる。
鈍い音がし、元親は顔を青くするがは気にした様子もなくすぐさま刀を構えた。

「なんでだよっ・・・!!」

押し殺した元親の声がに届くはずもなく、呟きは戦場の喧騒に飲み込まれる。
風が吹けば潮の香りを孕むそれは、ただ穏やかに血の香りを運んでいった。

口の端の血を拭いながら、は右手の愛刀を高々と掲げ、日輪をさす。

「聞け!!我らは元就様のための盤上の駒!!死を恐れるな!!進め!!」

全ては元就様の為に!!
そう叫んだ小さな女が巨躯の武将へと刀を振るう。
呼応する様に毛利軍の士気が高まり、上がる怒号に元親は盛大に顔を歪めた。

「なぁ、。俺はお前を愛してる」
「戦場で愛を語るとは、愚かしいにも程がある!戯言はやめ、大人しくその首を差し出すがいい長曾我部!!」

血飛沫の中の言葉に嘘偽りはない。
ただ愛おしいだけなのに、愛した女は敵の懐刀。

元親はぎりり、と歯を食いしばり、碇槍を握る腕に力を込めた。












常勝の女神

血濡れの愛情